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──見慣れた町並みの傍らで木陰に佇む長身の痩躯、結われた白銀の頭髪は癖のひとつもなく太陽の光を受けて煌めいている。色の差さぬ頬は真白い。そのくせ感情の欠片すら滲まぬ眼は鮮烈な赤を孕んでおり、道行く者の目を否応なしに引いていた。
先程から一切姿勢を変えずに往来する人の波を眺める姿は異質なようでいて、一度見たら決して忘れられぬ涼やかさを含んでいる。俺はその姿に見惚れ、気付けば思わず足を止めていた。短く刈った黒髪が秋風に遊ばれることも厭わず、ただそこに立ち尽くしていた。
ふ、と。その眼がこちらへ向けられる。
「──何用ですか」
人間味の薄い秀麗な顔立ちに良く似合う硬質で温度のない声が鼓膜を打った。声質は女にしては掠れて低く、男にしてはいやになめらかで高い。それを受けて俺はああとも、ええともつかないなんとも間の抜けた音を零した。今更ながら理由も無く人を見つめていたことを恥じ入り、熱を帯びた耳元を拳で拭う。
「いや、あの……」
「用事が有るのならば手短に」
「──ありません」
「そうですか」
感情を一切乗せずただ淡々と用事を尋ねる声に、脳裏を過ぎっていたいくつもの言い訳が見る間に勢いを無くして萎んでいく。肩を落として絞り出した言葉に、目の前の痩躯は眉ひとつ動かさずに応えた。長い睫毛に縁取られた赤色は静かにこちらを見つめている。
「あの」
「はい」
「──ここで、何を見ていたんですか」
居た堪れなくなった俺は、思わず自分から質問を投げ掛ける。許可もなくじろじろと相手を見つめていたことを一旦脇に置きやるという非礼の末の暴挙に出た。──俺の言葉を聞き届けた痩躯は木陰から秋の太陽の下にその足を踏み出す。その時に気付いてしまった。
こいつには、影がない。
「──」
思わず息を呑んで一歩後退った俺に、ふたつの赤がゆうるりと向けられる。相も変わらず何の情動も読み取れない冷然とした赤色だった。
「──……街はまだ実りの季節を堪能している、私たちが来るのは早かったようですね。
冬が来るまでさようなら。また会いましょう」
「──……っ!」
独り言か、はたまた俺に向けての言葉か──呟かれた言葉を理解するよりも先に、目の前の長身が橙色の柔らかい光に包まれる。優しい光なのに網膜を焼くそれから逃れようと目を瞑り、首を振って。ひとつ、ふたつ、みっつ。息を吸って、吐いてと繰り返して。そののちに目を開けると白い痩躯は跡形もなく消え去っていた。
──そうしてそこにたったひとつ残されていたのは、白と呼ぶには相応しくない雪色の羽根。
涼やかな声が、耳元で繰り返し聞こえる。
『冬が来るまでさようなら。また会いましょう』
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