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 他の先生に話を聞くと佐伯先生は柔道部の部室に廃部のことを話しに行ったらしい。そして、その後に佐伯先生のことを見た人はいてないみたいだった。 「柔道部の学生に会いに行こか」高梨悠斗は言った。 「柔道部ですか?」 「ああ。あの遺書を書いたのは佐伯莉子を殺した犯人だろ」 「そういうことになりますね」 「あの遺書には犯人の強い願望が表れてると思わないか?ということは、柔道部の廃部を阻止したい人物が犯人だということになる。柔道部の廃部を阻止したいのは?それは、柔道部員だろ」 「そうですね」 「それに柔道部の部室に向かってから誰も佐伯先生を見てないのだろ?なら、柔道部の部室で何かがあったのは明白だ」 「なるほど」 「それで、この学校に柔道部の部員は何人いてるんだ?」 「一人みたいです」 「一人!?一人しかいてないのか!」 「はい」 「ならもう、犯人は決まったようなものじゃないか」 「その一人が犯人ってことですか?」 「そうなるな。とりあえず、会いに行こうか」  高梨悠斗と田端迅は唯一の柔道部員である橘月葉に会いに柔道部の部室に来た。中に入ると、橘月葉と柔道部顧問の武田彩乃がいた。 「佐伯莉子先生の事件を担当している刑事の高梨悠斗です」 「同じく田端迅です」 「はい」武田彩乃は言った。 「佐伯先生が柔道部の廃部を伝えに来たとのことなんですが……」高梨悠斗は言った。 「はい。来ました」橘月葉は言った。 「その後に亡くなってるのが発見されるまで、誰も佐伯先生を見てないんだけど……」 「この子を疑ってるんですか!?」武田彩乃が言った。 「事実、橘さんに会ってから誰も佐伯先生を見てないんですよ」高梨悠斗は言った。 「この子が犯人だという証拠でもあるんですか!」  高梨悠斗は部室内を歩いて回った。そして、あるものに目が止まった。 「これは?」 「この子が個人の部で優勝したときのトロフィーですけど……」 「……」 「この子は優勝できるほどの実力があるんですよ。それを廃部だなんて……」 「このトロフィー、鑑識に調べてもらってくれるか」 「はい」 「なんでですか!?なんでそんなことする必要あるんですか!」武田彩乃が抵抗するように言った。 「いや、まだ佐伯先生の前頭部を殴打した凶器が見つかってないんですよ。このトロフィーなんかちょうどいいと思いまして」高橋悠斗は言った。 「もう無理だよ、先生」橘月葉は言った。 「橘さん……」 「刑事さん。佐伯先生を殺してしまったのは私です」橘月葉は言った。 「話してくれるかな」高橋悠斗は言った。 「佐伯先生が柔道部を廃部にするって言いに来たんです。私は食い下がったんですけど、無理で……。それでカーっと頭に血が上って気が付くとこのトロフィーで佐伯先生の頭を殴ってました」 「なるほど」 「それで、どうにかしようと考えたときに自殺に見せかけられないかと思い、遺書を残そうと……。それで、パソコンのある教室に行き、遺書を作成しました。それで、部室に戻ってくると武田先生がいてたんです。経緯を話すと武田先生は手伝ってくれて、佐伯先生の遺体を校舎の外に置き、靴を脱がせて、遺書と共に屋上に置いたんです」 「違うの橘さん!」橘月葉が事件の真相を語っているときに武田彩乃が遮って言った。「違うのよ、橘さん。橘さんが佐伯先生を殴ったときにはまだ佐伯先生は生きてたのよ」 「どういうことですか」高梨悠斗は言った。 「佐伯先生が廃部を告げに行って心配になって、あとを追って柔道部の部室に来ると、佐伯先生が頭から血を流して横たわってたんです。でも、このときにはまだ生きてたんです。ちょうど、意識を取り戻そうとしていて、咄嗟に傍らにあったトロフィーで佐伯先生の頭を殴ってしまったんです。佐伯先生が柔道部を廃部に追い込むため画策していたのも知っていたし、憎かったのは確かです。それで咄嗟に殴ってしまったんです。そして、そのまま意識を失っていきました。すると、橘さんが戻ってきて、飛び降り自殺に見せかけようとしてることを知り、その計画に乗ることにしたんです」 「なるほど。では最終的に致命傷を負わせたのは武田先生だってことですね」高梨悠斗は言った。 「はい……」武田彩乃は言った。 「それでは二人共、署に出頭してもらいましょうか」 「先生―!」 「橘さん、ごめんねー!」  そう言いながら二人は抱き合って泣いていた。
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