ウィリアムとダンスする私

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ウィリアムとダンスする私

 ダンスパーティが始まった。  私は気持ちを切り替えて、流れてくる曲に集中する。  ウィリアムはさすがに王子だ。ダンスがうまい。きっと、クラーク王国で練習させられたのだろう。  一方の私も負けていない。私は小さいときからダンスレッスンを受けていた。これも、我が家の方針だ。私が舞踏会でいい人に気に入られるようにと。  基本に忠実に、そして、相手のペースに合わせてゆっくりと踊る。  もちろん、ダンスホールでの礼儀作法は忘れない。曲の途中で隣のペアとぶつかったけど、会釈してやり過ごした。 「お前、ダンスできるんだな」 「公爵令嬢だから当たり前でしょ。あんたも上手ね」 「まぁ、王子だしな。いちおう……」  久しぶりに踊ったけど疲れてはいない。ウィリアムが上手いから何曲でも踊れそうな気がする。  しばらく踊ったら、1曲目が終わった。  次の曲はなんだろう?と考えていたら、会場から拍手が沸き起った。 「どうしたの?」と私はウィリアムに尋ねる。 「さあ、みんなこっち見てるな」 「私のドレス(背中)かな?」 「かもなー」 「ぶっ殺すわよ!」  鳴り止まない拍手は私たちに向けてのようだ。  ダンスに夢中で気付かなかったけど、私たちは注目を浴びているらしい。 「礼でもしとこうか?」 「そだな」  私たちが会場の参加者に向かって礼をすると、さらに大きな拍手が起こった。  その後、私たちは2曲、3曲と踊りを続けた。  ダンスパーティのパートナーがウィリアムで良かったのかもしれない。ダンスの息はピッタリだし、安心して踊ることができる。 「あんたってさー」 「なんだよ?」 「黙ってダンスを踊ってたら……モテるわよ」 「喋んなってこと?」 「そう。見た目はいいのに、喋ると残念な感じになるのよね……」 「お前がそれ言うか? お前も一緒だろ?」 「私はいいの。運命の人にさえ愛されれば」 「はいはい。足元が疎かになってますよー。喋らなければ綺麗なお嬢様!」 「あら、ありがとう。喋らなければイケメンの王子様!」  私たちは小競り合いを続けながらも踊り続けた。  ウィリアムとのダンスはなかなか楽しかった。また、ダンスしてあげてもいいかもしれない。  そして、私たちは満場一致でベストカップルに選ばれたのであった。 ――ぬぉぉーーー。ちがーーーう!  みんなは期待している。ベストカップルのキス。  どうしよう?  司会の男性が会場中に聞こえるように言った。 「それでは、ベストカップルのお二人にはキスをして頂きましょう!」  ベストカップルにならないために作戦を練ったのに、ウィリアムのせいでぶち壊しだ。  ウィリアムがタキシードを着たら……ちょっとカッコよかった。  ウィリアムが思ったよりも……ダンスが上手かった。  ウィリアムと私の息が思ったよりも……ピッタリだった。  ウィリアムが……ウィリアムが…… ――あれ、なに? 会場の声が遠のいていく……  そこで私の意識はなくなった。 ***  私が目を覚ましたら、そこは学園の保健室だった。  どうやら私はダンスパーティの会場で倒れたようだ。  誰かに抱えられて、フワフワした感じで会場を出た気がする。  運ばれている途中、私は見覚えのあるロケットペンダントを見た。 ――私が持っていたのと似てたな…… 「おい、大丈夫か?」  ベッド横のウィリアムが言った。私が目覚めるまでずっと待っていたのだろうか? 「私どうしたの?」 「コルセットがきつすぎて、酸欠だってさ」 「まぢか……」 「マジだな」 「恥ずかしい……」 「他の人は理由を知らないから、大丈夫じゃねーか?」 「そう…だね」 「そういえば、あんたが私を運んでくれたの?」 「そうだ。それにしても、お姫様抱っこは想像してたのと違ったな」 「なんで?」 「途中、手がプルプルして大変だった……」 「ぶっ殺すわよ!」 「とりあえず、もう少し休め。家まで送って行くから」 「ありがとう。あんた、今日は優しいのね。風邪でもひいた?」 「違う違う。女性をエスコートするのが王子の役目だ」 「へー」 「それに、家に帰るまでがダンスパーティだ!」 「はは、遠足みたい」  ウィリアムは口が悪いけど、悪いヤツではないかもしれない。  なんとなくそう思った。  そういえば……キスしなかった……よね?
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