あなたモテないでしょ?

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あなたモテないでしょ?

 私は昨日河原で大喧嘩した青年とお見合いをしている。  運命的な出会いだったという人もいるかもしれない。  でも、私は彼との運命を感じていない。  だって、ネチネチと嫌味なことを言って、私の精神力を削ってくるからだ。  現在お見合い10連敗中の私。このまま100回、200回とお見合いをしていけば、どこかで会った誰かとお見合いすることもあり得る。  隣のクラスの男子生徒がお見合い相手かもしれないし、カフェで隣の席に座った男性がお見合い相手かもしれないし、河原で喧嘩した青年がお見合い相手かもしれない。  だから、不思議な感じはするのだが、これは運命ではなく必然だ。  そんな私を気にせずに、ウィリアムは誰も周囲にいないことを確認してから「こんな奴とお見合いなんて……」と呟いた。 ――あー、イライラする……  昨日の喧嘩を再開させようかしら? 「こっちこそ、迷惑な話だわ。あんたがお見合い相手だと知ってたら来なかったわよ!」 「こっちもだ……」 「あー、11敗目が確定しました! どうもありがとう!」 「本当にうるさい奴だな」 「そりゃそうでしょ。これでお父様に大目玉を食らうのは決定。もうお見合いはしたくないのよ。分かる?」 「まぁ、10敗もしてたら、そう思うよな……」  ウィリアムは半笑いで私の方を見ている。  何が可笑しいのか分からないが、感じが悪い。 「あんたはいいわよね。毎回、お見合いを断ってるんでしょ?」 「まぁ、そうだな。否定はしない」 「きぃぃーー! なにその「否定はしない」って?」 「そのままの意味だ。二重否定だから、肯定している」 「そんなこと、分かってるわよ! その言い方がイライラするのよ!」 「ふっ……」  ウィリアムはまた半笑いしている。  イライラする…… 「ところで、今回でお見合いは何回目?」 「11回目……かな」 「ふーん。私は10敗なのに、あんたは10勝でしょ?」 「そういう言い方はよくない。お見合いに勝ち負けの概念はない!」 「へー、鬱陶(うっとう)しい理論を展開してくるのね」 「うるせーな。じゃあ、なんて言えばいいんだよ?」  ウィリアムは怒っているようだ。  ざまぁみろ! 「うーん、そうね。例えば、「たまたまですよー。運が良かっただけです!」とか……」 「まるで、宝くじに当たったみたいな言い方だな……」 「私が言いたいのは、あんたには謙遜(けんそん)が必要だということ。そんな性格だから、あんたモテないでしょ?」 「ぐぬぅぅ……。モテないこともない……」 「ほらー、また二重否定するでしょ。そういうところがダメなのよ…」  私にはウィリアムの人当たりの悪さで、10勝もしたことが信じられない。だから、問いただすことにした。 「なんで10勝もできたの?」 「だからお見合いに勝ち負けはない、って言ってるだろ! 俺が断っているのは結婚したくないからだ」 「へー、断られるのが嫌だから先に断る作戦……って卑怯じゃない?」 「しかたないだろー! 俺にも立場があるから、お見合いはしないといけないんだよ」 「まぁ、10勝もしていれば何とでも言えるわね。私は10敗よ、10敗! この悔しさがあなたに分かる?」 「分かりたくないな……」 「きぃぃぃーーー! くやしぃぃーーーー!」  ウィリアムは半笑いのまま私に言った。 「ところで、1つ聞いてもいいか?」 「なによ?」 「お前がお見合いをするのは、結婚したいからなのか?」 「はぁ? 喧嘩売ってるの?」 「そうじゃなくてさ……」 「私がお見合いをするのは、お父様が縁談を持ってくるからよ。私はお見合いをしたくないし、まだ結婚したくない」 「結婚したくないのに10敗してるよな。なんで?」 「私から断ろうと思っているのに、向こうから断ってくるのよ。だから10敗した」 「ああ、そういうことか。じゃあ、お前は結婚したいわけじゃないんだな?」 「もちろん!」  ウィリアムは考えている。 「一つ提案があるんだ」 「提案?」 「そう、俺はお見合いをしたくない。結婚も」 「王族は結婚しないといけないんでしょ?」 「俺は第3王子だから王位継承する兄よりも優先順位が低い。最終的には結婚しないといけないけど、しばらく先延ばしにしてもクラーク王国としては困らない」 「へー」 「俺は人を探しているんだ。もし俺が結婚するとしたら、その人だと思ってる……」 「ロマンチストなんだー」 「からかうなよ!」 「ごめん、ごめん」 「俺は時間稼ぎがしたい。それはお前も同じだろ?」 「そうね。私も時間稼ぎがしたい……」 「俺もお前も結婚したくないし、これ以上お見合いをしたくない」 「そうね」 「そこでだ! 俺とお前が婚約したことにしないか?」 「偽装婚約ってこと?」 「そうだ。そうすれば、俺は時間を稼げるし、お前も父上に怒られなくてすむだろ?」 「それもそうね。お互いの利害が一致しているわけだし……」 「じゃあ、決まりだ! いつ婚約解消するかは後で決めればいいだろ?」 「まぁ……いいわよ」  こうして、私たちは婚約を偽装することになった。  その場しのぎのような気もするが、とりあえずお父様に怒られなくて済む。  どうやって婚約解消するかは後で決めればいい。  その時は、そう考えていた。
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