ベストカップルは〇〇しないといけない

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ベストカップルは〇〇しないといけない

 その後、私たちは解散して家路についた。  私はウィリアムと一緒に帰っているのだけど、ダンスパーティの事を伝えていなかったから気まずい。 「お前、なんで俺に言わなかったんだ?」  ウィリアムは唐突に言った。 「黙ってたのは申し訳なかったけど……ダンスパーティには出るつもりがなかったのよ」 「あ、そうなの?」 「だって、イザベル王立学園はイザベル王国中の貴族子女が通ってるの。そこで私があんたとダンスパーティで踊っていたら、私たちが婚約していることが国中に広まるでしょ」 「それはそうだけど、なにか不都合でも?」 「あるわよ! 婚約破棄したら国中が知ることになるわ」 「そうだな……」 「あなたはいいわよ。イザベル王国内で噂が広まっても、クラーク王国まで噂は広まらないからね」  ウィリアムは少し考えてから、私に提案した。 「婚約破棄は先の話だけど、イザベル王国内ではお前が婚約破棄したことにすればいい。俺が浮気したとか適当な理由をつけても構わない。だって、俺はその時にはイザベル王国にいないから、どんな噂が流れても関係ない」 「それはそうね」 「逆に、クラーク王国では俺が婚約破棄したことにする。お前が伴侶として相応しくないとか国内で説明する。それでどうだ?」 「いいわね。それでいいわ」 「そうすると、ダンスパーティに出ても問題ないと思うんだが……。逆に、ダンスパーティに出なかったら、それはそれで怪しいだろ」 「そうなんだけど、もう一つ問題があって……」 「何だよ?」 「実は、ダンスパーティでベストカップルに選ばれたら、みんなの前で、その、あの……」 「あの、じゃ分からない。何だよ?」 「みんなの前で、キスを……しないといけない…」  ウィリアムは私がダンスパーティに参加したくない理由を理解した。 「へー、それが理由か……それで黙ってたんだ」 「えぇ」 「ところで、お前はキスしたことないの?」 ――なんて失礼な…… 「キスしたことないの?」って婚約者に言うことじゃないわよね。あ、婚約者じゃないか。 「キスぐらい、あるわよ……」 「いつ?」 「5歳の時に……」 「5歳って……。子供のキスは大人のキスとは意味合いが違う。それはキスにはいらないだろ」  そう言いながらも、ウィリアムは何かを考えているようだ。  運命の人との思い出をバカにされた気がした私は、声を荒げてウィリアムに問う。 「あんたはどうなのよ?」 「俺だって、あるよ……5歳のときに」 「じゃあ、あんたのもキスにはいらないわね」 「うるせー!」 「なによーー、あなたも同じじゃない!」 ――5歳のときに、クラーク王国で。まさかね……  私の運命の人とのキスは、5歳のときにクラーク王国で。ウィリアムのキスと同じだ。  でも、クラーク王国は広いから気のせいだろう。  私は念のためにウィリアムに確認する。 「ちなみに、5歳のキスは覚えているの?」 「ああ、完ぺきではないけど覚えてる。たしか、感謝祭だったと思う」 「感謝祭……」 「他国から来ていた女の子とキスしたんだ」 「へー」 ――5歳のときに、クラーク王国の感謝祭で、他国の女の子と……  まさか、コイツが運命の人? いやいや。もっといい人だった。  泣いていた私を助けてくれた理想の王子様。こんなポンコツ王子ではない。  とりあえずの優先事項は、ダンスパーティをどうするかだ。  ポンコツ王子が運命の人かどうかは後で調べることにしよう。  まず、私たちがベストカップルに選ばれないことが重要だ。  ベストカップルに選ばれなければ、公衆の面前で偽の婚約者とキスしなくていい。 ――ベストカップルに選ばれない方法は?  化粧をせず、時代遅れのドレスを着て、ボサボサの髪型で参加する。そうすればベストカップルに選ばれることはない。ウィリアムも普段着で参加するように言っておこう。  私はウィリアムにダンスパーティでの服装について嘘のレクチャーをした。  イザベル王立学園のダンスパーティは特別な服装をして踊らない。  制服で踊るのが伝統だと。  もちろん、嘘情報だ。  全てはベストカップルに選ばれないために!
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