そして、ダンスパーティが始まる

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そして、ダンスパーティが始まる

 学園祭の当日がやってきた。  学園祭には学内・学外の人がたくさん来ているから問題事が大量に発生する。迷子、スリ、喧嘩など上げればキリがない。それに、生徒の保護者や地域の役員への対応も必要だ。  生徒会メンバーはそれらの対応に走り回っている。生徒会長である私も問題事の対応に一日中追われていた。  朝から生徒会の仕事をしていたら、ダンスパーティの時間が迫ってきた。 ――あぁ、出たくない……  他の生徒はダンスパーティに正装して参加する。でも、私は制服のまま参加しようと思っている。その方がベストカップルに選ばれる可能性が低いはずだから。  私は公爵令嬢。そして、私のダンスのパートナーは隣の国の王子。  ダンスパーティの審査員は忖度(そんたく)して私たちに点を入れるだろう。いや、この2人をベストカップルに選ばない審査員はいないかもしれない。  だから、大きな減点を作らないといけない。  制服で踊れば何とかなるはず……  私がダンスパーティの会場に行こうしたら、生徒会室にウィリアムがやってきた。  手には屋台で買った食べ物、どこかで手に入れた戦利品を持っている。学園祭を楽しんでいたようだ。 「食べる?」とウィリアムは私にカステラを差し出した。  私は朝から学園祭の対応で食事も満足にできていない。  お腹が空いていたから、ウィリアムからカステラを奪い取って食べた。 「あら、美味しいわね」 「そうだろ? 試食したら美味しかったから、お前に買ってきたんだ」 ――えぇっ? 今なんて言った?  コイツそんな気遣いができたっけ? いつもと違うウィリアムに戸惑う私。  そんな私を無視してウィリアムは私に尋ねる。 「ダンスパーティの会場に行ったんだけどさー、みんな正装してたよ。お前から聞いた、制服で踊る伝統って本当?」 ――これはバレたな…… 「あれ? 今年からそういうルールに変わったのかな……」  しかたなく誤魔化す私。 「だから、連れてきたよ」  そういうと、ウィリアムは私の侍女を部屋に呼んだ。 「お嬢様、ドレスをお持ちしました」  侍女は私にダンス用のドレスを差し出した。 「えぇ? なんで?」 「念のために侍女に来てもらったんだ。ダンスパーティは普通正装するからな」 「念のため……」  用意周到なウィリアム。女性がドレスを一人で着替えられないことを知っている…… 「ドレスに着替えて来なよ」  私が黙っていたら、ウィリアムが嬉しそうに言う。 「そして、俺はこれ!」  ウィリアムは着ていた制服のジャケットを脱いで、別のジャケットを羽織った。  タキシード姿に変身したウィリアム。クルクル回って一人で踊っている。  一応、ウィリアムは長身でイケメン。フォーマルな衣装を着ていたら、本当に彼が一国の王子に見える。私は、思わず見とれてしまった。 「ちょっと、この格好に感想ないの?」とウィリアムは不満そうだ。 「いや……思ったよりも似合ってる……」  不覚にもそう言ってしまった私。 ――いやいや、そうじゃない……  ウィリアムがタキシードなのに私が制服で踊るわけにいかない。  私は「ちょっと待ってて」とウィリアムに言って、更衣室でドレスに着替えた。  ノーメイクはマズいから化粧も簡単に済ませる。  更衣室を出てきた私を、ウィリアムはじっと見ている。  ウィリアムは何も言わない。ドレスが似合ってないのかと思うと、急に恥ずかしくなってきた。 「なに? 似合ってない?」 「いや……何ていうか……馬子にも……」 「ぶっ殺すわよ!」  そんなことをしている場合じゃない。ダンスパーティが始まる時間だ。  私とウィリアムは会場に急いだ。 ***  私とウィリアムが会場に入ると、どよめきが起こった。  みんなが私たちを見ているような気がする。  気のせいかもしれない、いや……見てるな。 ――やっぱり、このドレスのせいだ……  ウィリアムが持ってきたドレス、背中がほとんど開いている。  偽装だとはいえ婚約者にこんなドレスを着せるか? 「ちょっとーー! なんでこんなに背中開いてるのよ?」 「知らねえよ。お前の父上が持っていけと言ったんだ」 「お父様が??」 「ああ、そう。それはお前の父上の趣味だ。俺の趣味じゃない!」 「似合ってないかな?」 「いや、そんなことはない。別人みたいだ。でも話したらお前だな」 「こっちのセリフよ」  私たちが小競り合いしている間も、周りの参加者は私たちの方をずっと見ている。  こそこそと何か言っているようだ。私は人並外れた聴覚を使って周りの人たちの噂話を聞く。 「ちょっと、あのカップル見て!」 「あれこそ美男美女だわ。私たち勝てないじゃない!」 「私たち完全に引き立て役ね。あの二人がいたら周りが見劣りする」 「今年のベストカップルはあの2人ね」 「間違いないわね」  ちょっと、みんなが私たちを見てる……  周りの噂話に緊張する私。そんな私を、ウィリアムが会場の空いているスペースにエスコートする。  そして、曲が始まった。
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