0人が本棚に入れています
本棚に追加
でも、手にした時は価値があると思っても、飽きてしまえばそれまでだ。安物の新品とではなく、他の高級ブランドの最新モデルと比べたらどうなのだろう。よほどのマニアでなければ、後者を選ぶに違いない。
「ごめん、今日は疲れているんだ。寝かせて」
彼は帰宅するなり、ネクタイを緩め、上着と私が誕生日プレゼントに買ってあげたロエベのトートバッグをソファに投げると、まっすぐシャワーに向かった。
私は不愉快だった。私から誘ったことなんてないのに、帰るなり「寝かせて」だなんて。今夜は期待してくれるなと前ぶりされているようで――みじめな気分だった。
嫌な予感がした。
これまで私はただの一度も男のスマホをチェックしたり、バッグの中を漁ったりといった下品な行為などしたことがなかった。他の女への一時的な目移りは許せる自信があった。見切る時は潔く切ったし、去る者は追わなかった。それが私のプライドだった。
それなのに、彼にだけはかつてない執着を感じていた。執着、なのだろうか。15歳もの年齢差。後先を考えずに全力で愛してくれたけれど、初めから、ずっと不安があった。いつまで続くのだろうかと。他の誰とも違う、僕は唯一無二の存在なのだと息巻く彼の言葉に「期待していない」と笑いながらも心の底では信じたくてすがっていた。
浴室からはシャワーのしぶきが壁や扉に勢いよくあたり彼の身体を流れ落ちていく音が聞こえていた。私は息をのみ、恐る恐る彼のバッグに手をかけた。そうっと開いて手をしのばせ、両手で広げて覗き込んだ。秘密の扉をこじ開けるように。彼の心の底を探るように。
書類ファイル、財布、スマホ、タブレット……そしてガサガサと耳障りな音を立てて私の指に纏わりついたドラッグ・ストアのビニール袋。不透明で小さめの袋だった。
それだけで私は中身を予期した。それでも最後の期待をこめて確認した。片手に入ってしまいそうな小さな箱。5個入りの避妊具の箱だった。中には3個しか入っていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!