8.5 千秋と夏実

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「だから、眞冬を助けられるのは、私だけだと思ってたの。でも……眞冬の笑顔を取り戻したのは、北原さんだった」 「あ……」  今年の春、抜け出した眞冬を探し回った時のことが、脳裏に蘇る。  あの時、春花ちゃんは、すごく必死に眞冬を探してた。  それだけじゃない。眞冬が、みんなを拒んだ時も……諦めずに、眞冬に歩み寄っていた。  その場にいた誰よりも、眞冬のことを笑顔にするために一生懸命だった。  そんなに、自分のことを想ってくれたら……誰だって、春花ちゃんのことが好きになるに決まってる。  そして、そんなに一生懸命な姿を見せつけられたら……みんな、春花ちゃんには敵わないって思ってしまうと思う。  夏実さんも、そうだったのかもしれない。 「私、北原さんみたいになりたい。周りの人みんなを笑顔にできて、大事な人を、幸せにできる……そんな人に、なりたい。それから……」  夏実さんは顔を上げて、僕に向かってぎこちない笑顔を見せた。 「眞冬の、一番傍にいたいよ。私じゃ、笑顔にできないって、分かってても」 「夏実さん……」  僕は、苦しそうな顔をする夏実さんから目が離せなかった。  僕も、痛いほど分かるよ。夏実さんが抱えてる悔しさ。  それから、このことを打ち明けるのに、すごく勇気が要るってことも……よく分かる。  分かるからこそ……僕になら、できると思ったんだ。 「あの……だ、大丈夫だよ!」  夏実さんを、元気づけることが。 「夏実さん、大丈夫、だから!」  僕は両手の人差し指を立てて、自分の口の両端をにゅっと上げて笑顔を作った。  
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