7人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから、眞冬を助けられるのは、私だけだと思ってたの。でも……眞冬の笑顔を取り戻したのは、北原さんだった」
「あ……」
今年の春、抜け出した眞冬を探し回った時のことが、脳裏に蘇る。
あの時、春花ちゃんは、すごく必死に眞冬を探してた。
それだけじゃない。眞冬が、みんなを拒んだ時も……諦めずに、眞冬に歩み寄っていた。
その場にいた誰よりも、眞冬のことを笑顔にするために一生懸命だった。
そんなに、自分のことを想ってくれたら……誰だって、春花ちゃんのことが好きになるに決まってる。
そして、そんなに一生懸命な姿を見せつけられたら……みんな、春花ちゃんには敵わないって思ってしまうと思う。
夏実さんも、そうだったのかもしれない。
「私、北原さんみたいになりたい。周りの人みんなを笑顔にできて、大事な人を、幸せにできる……そんな人に、なりたい。それから……」
夏実さんは顔を上げて、僕に向かってぎこちない笑顔を見せた。
「眞冬の、一番傍にいたいよ。私じゃ、笑顔にできないって、分かってても」
「夏実さん……」
僕は、苦しそうな顔をする夏実さんから目が離せなかった。
僕も、痛いほど分かるよ。夏実さんが抱えてる悔しさ。
それから、このことを打ち明けるのに、すごく勇気が要るってことも……よく分かる。
分かるからこそ……僕になら、できると思ったんだ。
「あの……だ、大丈夫だよ!」
夏実さんを、元気づけることが。
「夏実さん、大丈夫、だから!」
僕は両手の人差し指を立てて、自分の口の両端をにゅっと上げて笑顔を作った。
最初のコメントを投稿しよう!