10.5 千秋と雨上がり

2/4
前へ
/147ページ
次へ
 ドアを開けると、まだ春花ちゃんは帰ってきていなくて、代わりにおばあさんが本を読んでた。  おばあさんは僕に気づくと、本を閉じてこちらへ微笑む。 「千秋くん。温まれたかい?」 「は、はい!」 「そうかい。なら良かったよ」 「ありがとうございます……」  僕は頭を下げて、その場に突っ立ったまま戸惑う。  春花ちゃんはいないし、おばあさんと一緒って、なんか緊張する……座ってもいいのかな?  僕が立ち尽くしていると、おばあさんはクスリと笑って手招きしてくれた。 「千秋くん、こっちへ座りなさいな」 「あ、はい……!」  僕は急いで、おばあさんの隣の席に腰を下ろした。  緊張して、何を話せばいいか分からない。飲み物も、さっきご馳走になっちゃったし、何もすることないし……。  ガチガチに固まっていた僕だったけれど、この後のおばあさん言葉で、緊張が全部吹き飛んでしまうんだ。 「千秋くんは、春花のことが大好きなんだね?」 「え!?な、な…………何で……!!」 「ははは!顔が真っ赤だよ?」  おばあさんに指摘され、僕は慌てて顔を下に向ける。  うう……は、恥ずかしい…………。 「ああ、揶揄ってごめんよ!嬉しくてつい、ね」 「嬉しくて……?」  僕は少し顔を上げておばあさんの顔をちらりと見上げる。  すると、目に映りこんだのは、彼女の温かい笑顔だった。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加