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* * *
「ただいまー!」
家のドアを勢いよく開けて、リビングまで駆けて行く。すると、おばあちゃんがソファの上で目を閉じていた。
「おばあちゃん?」
寝てるのかな?気になった私は、おばあちゃんに歩み寄って、肩をトントン叩いた。
「おばあちゃん、おばあちゃーん?」
しばらく叩いていると、おばあちゃんは重そうな瞼をゆっくり開けて私を見つめる。
「おばあちゃん?」
「梅彦さん……?」
「え?」
梅彦さん……って、誰だっけ。知らない名前だと思うんだけど……。
「おばあちゃん、梅彦さんって誰?」
「え?……ああ、春花。春花だったのかい」
おばあちゃんは身体を起こして、目を擦りながら私に微笑む。
「ごめんね、寝ぼけてたみたいだ」
おばあちゃんはソファに座り直して、自分の隣をトントンと叩いた。
「春花、おいで」
「あ、うん……」
おばあちゃんは、私が隣に腰を下ろしたのを見て、優しい声で話し始める。
「梅彦さんはね、春花のおじいちゃんだよ」
「おじいちゃん?」
「そう。春花が産まれてからは日本にいなかったから、春花は知らないだろうけどね」
おばあちゃんはそう言って、少し遠くを見つめた。
おばあちゃんの視線の先にあるのは、リビングの壁。だけど私には、おばあちゃんは、もっともっと遠くを見つめているように見えた。
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