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西公園の桜の大木。今、丁度満開で、薄紅色の花々がフワフワと揺れている。私はその木の下まで千秋くんを連れてくると、千秋くんの両手を握ったまま、クルクルと回った。
「見て見て!」
回る私達を中心に、薄紅色の花吹雪が巻き起こる。キラキラと輝く桜の渦が、私と千秋くんを包み込む。
「わぁ……」
春色の花びらが舞い踊る、絵本の中みたいに不思議で、夢の中みたいな景色。私が、小さい頃から大好きな異能の力。桜吹雪に囲まれて目を輝かせる千秋くんを見て、私はただ、嬉しかった。
「春花ちゃんの、アビリティ、綺麗だね。僕には……真似できないや」
「えへへ……。でもさ、アビリティって、人それぞれで違うでしょ?千秋くんのアビリティは何なの?」
その質問をした途端、千秋くんの顔が、明らかに強ばった。
「ぼ、僕の、アビリティは…………」
「アビリティは?」
「…………みんなに嫌われる力だから、言いたく、ない……」
「え……?」
嫌われるような、力?
アビリティは、一人一人に与えられた個性。だから、アビリティを理由に、その人のことを嫌ったり、馬鹿にしちゃいけないんだって、1年生の冬に学校で習ったばかり。
私は、怯えた顔で俯く千秋くんの手を、さっきよりも強く握った。
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