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「そんなことないよ!私、アビリティのせいで千秋くんのことを嫌いになったりしないもん」
「え…………ほ、ほんとに?」
「うん!だから、安心して!」
私が力強く頷くと……千秋くんの瞳から、涙が一筋、頬を伝った。その、一筋の涙がきらめく瞬間、私の中の時間が止まる。
「あ…………」
千秋くんが、泣いてるのに。すぐ元気づけなきゃいけないのに……私、見とれちゃってたんだ。
頬を伝う涙も、潤んだ深紅の瞳も……本当に、綺麗だったから。
「っ…………、春花ちゃん」
「あ…………な、何?」
「……ありがとう」
千秋くんは、そう言って……優しく、本当に優しく笑ってくれた。千秋くんの笑顔が見れたことが、とっても嬉しかったから……私も、つられてお礼を言っちゃったんだ。
「ふふっ、私もありがとう!」
「え?な、なんで、お礼言うの?」
「嬉しかったの!千秋くんの笑顔、見れたのが嬉しかった!」
「あ……、そ、そっか」
千秋くんは、少し頬を染めて、目線を逸らす。ちょっと恥ずかしそうだけど……そんなことよりも、千秋くんの笑顔が見れて満足だった私は、彼の手を引いて、北原邸に帰ろうとした。
「日が暮れる前に帰ろっか」
私たちを包んでいた、桜吹雪がサラサラと消えていく。ちょっぴり寂しいけど……また、異能を使えば見れるから、明日になったら、もう一度千秋くんと一緒に見よう。そう思ってた。
……でも。その明日は、もう来ないかもしれない。
「グォォォ!」
西公園の、ブランコの近く。沢山の子どもたちが遊んでいたはずのそこに、全身が鋭く尖った針山のような、人型の化け物がいた。
「あれ、は…………」
この世界の生き物を襲う、恐ろしい怪物…………高次元生物だった。
生息地も、生態も不明。いつ、どこに現れるか分からない。だから、いつ彼らに殺されるかも、分からない。
この世界は、そんな世界なんだ。
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