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「っ……、あいつ」
こめかみを押さえながら、俺は深呼吸をして、塗り付けられた黒を流そうとする。
頭がズキズキと痛む。目がチカチカする。昔からそうだった。強すぎる感情を『読んでしまった』時は、決まって体調が悪くなった。
とにかく、ここを離れないと……。
俺はふらりと立ち上がり、覚束無い足取りで教室の外へ歩いていく。
教室の後ろの扉を開けて、廊下に出ようとした時、教室に入ってこようとしたであろう誰かとぶつかった。
「っ、わり……前、見えてなくて」
俺は霞む視界を必死に探り、目の前にいる人物の顔を見る。
栗色のポニーテールと、夕焼け色の瞳。
そして、ほのかに香る薔薇の香り。
この情報から、思い当たるのは、1人だけだった。
「夏実…………?」
「眞冬、大丈夫?」
夏実は不安げな声で俺に尋ねる。
──なんか、顔色悪いな。何かあったのかな?
表面上でも、心の中でも、俺のことを気遣ってくれる夏実の声。
落ち着く、声だ。
その声を聞いた途端、頭の痛みが、ほんの少し和らいだ。
「……なんでもない。ちょっと、具合悪くてさ」
俺は、いらない心配をかけないよう笑顔を作りながら、夏実の声に答える。
「そうなんだ……。保健室、1人で行ける?私、ついていくよ」
「いや、大丈夫だよ……心配すんなっての」
俺はそう言って、夏実の脇を通り過ぎる。
しかし、酷い目眩がして……俺はその場に倒れ込んでしまった。
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