5.5-2 眞冬の気持ち

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「っ……、あいつ」  こめかみを押さえながら、俺は深呼吸をして、塗り付けられた黒を流そうとする。  頭がズキズキと痛む。目がチカチカする。昔からそうだった。強すぎる感情を『読んでしまった』時は、決まって体調が悪くなった。  とにかく、ここを離れないと……。  俺はふらりと立ち上がり、覚束無い足取りで教室の外へ歩いていく。  教室の後ろの扉を開けて、廊下に出ようとした時、教室に入ってこようとしたであろう誰かとぶつかった。 「っ、わり……前、見えてなくて」  俺は霞む視界を必死に探り、目の前にいる人物の顔を見る。  栗色のポニーテールと、夕焼け色の瞳。  そして、ほのかに香る薔薇の香り。  この情報から、思い当たるのは、1人だけだった。 「夏実…………?」 「眞冬、大丈夫?」  夏実は不安げな声で俺に尋ねる。 ──なんか、顔色悪いな。何かあったのかな?  表面上でも、心の中でも、俺のことを気遣ってくれる夏実の声。  落ち着く、声だ。  その声を聞いた途端、頭の痛みが、ほんの少し和らいだ。 「……なんでもない。ちょっと、具合悪くてさ」  俺は、いらない心配をかけないよう笑顔を作りながら、夏実の声に答える。 「そうなんだ……。保健室、1人で行ける?私、ついていくよ」 「いや、大丈夫だよ……心配すんなっての」  俺はそう言って、夏実の脇を通り過ぎる。  しかし、酷い目眩がして……俺はその場に倒れ込んでしまった。
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