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「レオがひどくふさぎ込んで・・・話もろくにできなくなってしまったの。落ち込んで食事もちゃんと食べてないようで・・一人でいるみたいだった・・」  いきなりレオの話が始まり、あの頃に戻って真剣に心配するアナを止めることができず、私は時系列だけ確認することにした。 「それはいつ頃のこと?ケイトが何歳くらい?」 「ロンドンに戻って私とケイトの生活が安定してきた頃だったわ。電話口のレオの様子がおかしくなって・・・彼、うつ病だったの。前から薬を飲んでいたけど、ひどくなって・・・アテネの病院に入院することになったの。」  アナは明らかに動揺した様子になって、指先が小刻みに震え出した。私は感情の高ぶりを警戒して、他の話題に持っていこうかと考え始めた。しかしアナは止まらずに話し続けた。 「レオには若い時からマネージャーがついていて、面倒をみていたから、彼から聞いたの。レオはちゃんと話もできなくなっていたから。ひと月だけ治療のための入院をするって・・・」  そう言うとアナは急に黙って、また目線を一点に定めて無表情になった。私がメモの手を止めて目を上げると、アナは思い詰めたように言った。 「・・あの時、私がついて行くと言ったら、彼はなんと答えただろう。もう少し長く一緒にいられるようになったかしら。ついて行けば良かった。強引にでも。なんで島へ行かなかったのかしら。」  悲し気なアナになんと相槌を打つべきか考えていると、彼女は過去の行動を後悔するように続けた。 「結局私は言い出せず、彼の治療を助けることもできずに、イギリスに残ったの。すごく心配で、すぐにでも傍に行きたかったのに。行かなかったの・・・いつも・・どんな時も彼のことを考えていた。連絡してみたけど、病院は外からの連絡は取り次いでくれないのよ。私は家族ではないから。だから彼が退院したこともわからず、しばらく連絡ができなかった。」  少しの沈黙の間に、私が言葉を繋げようとした時、アナが叫び出した。 「言えばよかったのよ!一緒にいたいって!病院だろうと何処だろうと、傍にいたいって!言えばよかった!!あの時、行けばよかった!!私は行かなかったのよ!!」  そう叫び続けながら、アナは両手を固く握って掛布団を叩き出した。整えられていた白髪の短いボブは、アナの動きで上下に揺さぶられ、一瞬で乱れてしまった。私がアナの急な感情の爆発に固まっているとアイラが飛んできて、アナを抱き締めるように落ち着かせ、薬を飲ませた。一瞬の出来事に私はただ座ったままアイラの処置を不甲斐なく見ていた。 「今日はもう無理ね。」 「・・ええ、わかりました。明日また・・」 「こちらから連絡するわ。明日の朝の様子次第ね。」 「あぁ・・はい。」  アナが静かに横になったのを見届けて、私はアイラに連絡をお願いして部屋を出た。突然の出来事に、私はまだ面食らっていた。アナがあんなに激しい感情を露わにして喚き出すとは思いもしていなかった。  部屋を出て、私は帰る前にアナのアトリエを見せてもらうことにした。二階の一番端にあるアトリエは、角部屋で陽射しが明るかった。中央の大きなテーブルには油絵の絵の具や筆が乱雑に置かれ、イーゼルが窓際に立っている。壁の一面は本棚になっていて、美術書やスケッチブックがぎっしり収納されている。一方の壁の棚にはギリシャ彫刻の胸像が3点置かれている。きっとデッサンの練習をしたのだろう。
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