4

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

4

(…………)  大学院博士課程で地質学を専攻する英里天降は、自身がアフリカ大陸某国の地質調査の際に「発掘」したモノを前に神妙な顔をしていた。 「お父ちゃん!」  いきなり娘から声をかけられた彼は、我に返る。 「わっ!ビックリした…。庵、背後からいきなり大声を出さないでくれよ。父ちゃんは今、大事な論文を書かなくちゃならないんだから」 「でもお父ちゃん、パソコンを見たら真っ白だし変な布みたいなモノを前にして全然身動きもしてないじゃん。ねぇお父ちゃん、こないだ作ってくれた食パンのプリン、美味しかったからまた作ってよ」 「そ、そうだな…。『下手の考え休むに似たり』って言うから、気分転換にいっちょパンのプリンを作って一緒に食べよう」  そして天降は娘の庵と共に、自身の寝室兼仕事場を後にする。  仕事場に残されたのは、アルミニウムを繊維状にして布のように織り込んだ「旗」のようなもの。この「旗」は、現代の技術でも充分制作が可能なモノだろう。  問題は、それが「36億年前の地層」から発掘されたことであった。    天降も娘の庵も知らない。否、小麦も甜菜も、ホルスタインもニワトリも、その他地球上のあらゆる生命が知らないだろう。  遠い遠い36億年前の昔、地球という惑星に自己再生産機械の一群が降り立ったことを。そして彼らが地球に散布した有機ナノマシンが、土着の有機化合物(=ウィルス)に触発され、ナノハザードを起こしたことを。さらに、この惑星のありとあらゆる生命が、そのナノハザードを起こして変わり果てた「有機ナノマシン」の子孫であることも…。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!