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 製造番号83101411580141がスクラップとなって、さらに数万年の歳月が経過した。 〔計算によると、いよいよあと100年も経たぬ裡にこの惑星は我々に適した環境に生まれ変わる。そうなると、わざわざ機体改造をせずともこの星の大気をボディに取り込み、そして機能を停止した有機ナノマシンを燃料として、我々は母星に居た時と同じように駆動できるのだ〕  製造番号415837009976が、興奮気味に語る。この機体は、地質調査用に製造されたモノで、日々惑星各地を渡り歩いては土壌・水質のサンプルを採取し、その分析・調査に明け暮れていたのであった。それに呼応して、部下の製造番号7977971152440が発声する。 〔そうですね。我々の仕事はこの惑星の土壌・水質の調査ですが、地表・海底を問わず、この惑星には機能を停止した有機ナノマシンの残骸が大量に堆積しています。…しかし、少し気になる話があるのですが…。製造番号415837009976、少し時間をいただけませんか?〕 〔何かね?〕  製造番号7977971152440は、何やら答えにくそうな感じであった。 〔今モニターを持って来ます。それをご覧になると、製造番号415837009976も理解できると思うのですが…〕  そう応えると、製造番号7977971152440はモニタールームに走り、しばらくすると携帯ディスプレイをアームに提げて戻ってきた。そしてディスプレイのスイッチを入れて、画像を調整する。 〔キミ、何やら勿体ぶっているが、端的に説明するなら我々に不都合な出来事が発生でもしたのかね?〕 〔まぁ、その通りと申しますか…。これはここから少し離れた海面から採取した海水の画像です。そして私の同僚の製造番号999010774774810がその海水を分析したところ、水中に溶け込んでいた有機ナノマシンに異状が見られたのです〕 〔異状…???〕  製造番号7977971152440は、ディスプレイの画像をズームアップさせる。まさしく「顕微鏡サイズ」にまで拡大されたその画像に映されていたのは…???  クロロフィルを内蔵した有機ナノマシンが、他の有機ナノマシンを取り込み、サイズを巨大化させて、そしてしばらく経過するとその有機ナノマシンに「くびれ」が生じたかと思うと二つに分裂した。そして、それが何回も繰り返されている…!  そう!本来ならば海中空中に散布された後に、機能を停止した有機ナノマシンは、そのまま海底や地表に沈殿・堆積するはず。ところが、ここに映し出されているナノマシンは自己に他のナノマシンを取り込んでは肥大化し、そして「自己を複製する」という芸当までやってのけていたのである!  この画像の意味するところとは、一体何なのか…?  この様子を頭部のカメラに捉えた製造番号415837009976は、自らの思考回路にこれから何が起きるのかをシミュレートさせて、そしてうろたえる。 〔た、大変だ!〕 「有機ナノマシンが暴走し、周囲の元素や他のナノマシンを取り込んでは自己複製を繰り返している」  この件が報告され、惑星中の都市群落や生産プラントに共有されると、自己再生産機械たちはそれこそ「制御が利かなくなり暴走を始めた輸送機械」のように大パニックとなった。  即ち、自分たちが資源を採掘しては繁栄を極めるはずであったこの惑星は、ナノハザードを起こした有機ナノマシン群に乗っ取られようとしている。その「暴走を始めた有機ナノマシン群」は、生産プラント無しに次々と自己を複製しては惑星を造り替えようとしている。そして自己再生産機械たちの制御が利かなくなったナノマシンは、最終的に彼らの生存すら許さない環境に、「有機ナノマシン自身の生存」そのものを目的としてこの星を改造しようとしているのであった。  そうこうする裡に、有機ナノマシンの中には他の変化したナノマシンをボディ内部に取り込み、共存させるものが出てきた。そしてそれらのナノマシンは、データを採ろうにも自己再生産機械の記憶容量を遥かに超えるほどの、膨大な数の種類に変化していったのであった。その内容は…???  紐状に変化したナノマシンを回転させて水中を泳ぐもの・水分子の衝突によって移動するのではなく、自らのボディをうねうねとくねらせて移動するもの・果ては、他の同種のナノマシンと結合して自己の組織化を果たすという芸当をやってのけるものまで…。  最早、この惑星の支配者は自己再生産機械ではなくなった。「自分たちが快適に生活する」という目的で、大量生産されては役目を終えると廃棄され、燃料として消費される「有機ナノマシン」こそが、惑星の新たな支配者の座に就いたのであった。  自己再生産機械がこの惑星に降下して、まだ10万年にも満たない時期。  彼らが1旈のアルミニウムの旗を地表に突き立てて8万7105年目に、全ての都市群落と生産プラントが星を捨てて宇宙へと飛び立っていった。  かつて自分たちが生産し、そして暴走を始めた有機ナノマシン群を遺して…。
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