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 自己再生産機械の種族の発見したその惑星は、形成されてまだ10億年も経過していないという「若い星」であった。 「惑星」は、黄白色に輝く恒星の3番目の「製造物」とも言える。彼らが調査した結果、この星は窒素と二酸化炭素がほとんどを占める大気に覆われ、地上はだだっ広い海に覆われていた。  しかし彼らにとり、この大気では駆動に支障をきたす。何しろ、彼ら自己再生産機械は炭素化合物を酸素によって燃焼することでエンジンを駆動させ、アームや脚部を動かすのみならず、思考も行うからであった。  彼らはダイヤモンドから炭酸塩まで、およそ「炭素」の含まれているものであれば何でも「燃料」としてその活動を維持する。数少ない例外は、常温では気体として存在する一酸化炭素・二酸化炭素であろう。但し、ボディは鉄やチタンやアルミニウム・思考回路はシリコンによって構成されるので、これらだけは「工場」で生産せざるを得ない。彼ら自己再生産機械は、地中から採掘される資源の枯渇・エネルギー問題・半ば無計画に近い仲間の大量生産により、種族の滅亡に瀕していた。  そこで彼らの裡で、実に1000万機の個体が新天地を求めて母星を離れ、休眠状態となって数千年かけてはるばるこの惑星に到達したのであった。  休眠状態から覚醒して、再度エンジンやモーターを駆動させた彼らは、目の前のモニターに映し出される惑星をカメラに捉えて歓喜した。 〔遂に到達したぞ!我らの新天地だ!!〕〔これからこの惑星を大改造して、我々の住める環境に変えることが課題だ〕〔母星を離れて数千年。この星こそが我々にとり第二の故郷となるのか…〕〔この星を我々の生活できる酸素の大気で覆い尽くすには、何万年かかるのだろう?〕〔この惑星の陸地に「酸素プラント」を建造して、我々にとっての有益資源である炭素化合物を採掘しなければな〕etc. etc.  彼らの外見は、駆動ユニットと機体前部のセンサーユニットを、歩行用の8本の脚部・それとは別の2本の工作用アームで支えるという姿であった。  自分たちがこのような姿となったのは、自然の賜物であるのか、それとも自らとは異質の知生体がデザインしたのか?それは彼らの間でも意見が分かれている。しかし、この自己再生産機械の種族の99%が、自分たちの姿こそが宇宙で最も合理的・且つ洗練された姿であると確信しているのであった。  降下ポッドで降り立った機体が、岩石だらけで動くものは何もいない陸地に1旈のアルミニウム製の旗を立てる。 〔これは、我々にとり新たな歴史の記録となる。皆の者、今後我らはこの惑星で、数億年に亘る歴史を歩んで行くのだぞ!〕  旗を立てた隊長格の機体・製造番号1171170298117が宣言する。  その様子をカメラに捉えた他の機体が、やんや!やんや!と歓声を挙げた。彼らは、この惑星の大気を機体に取り込んだ途端に機能が停止する。そこでこの場では、どの機体も酸素ボンベを取り付け、エンジンが故障しないような仕様にボディを大幅に改造しているのであった。 〔…しかし、この惑星で暮らすには、我々のようにボディを大幅に改造する必要がある。果たして、それを受け入れる機体は存在するのかな?〕  まだ新品同様の、若い機体・製造番号83101411580141が気になっていたことを隊長に伝える。しかし製造番号1171170298117隊長はこのように伝えた。 〔考えるには及ばぬ。実を言うと我々が母星を出発する直前に、高名な科学者である製造番号4649008324649博士が画期的な発明をしたのだ〕 〔その発明とは?〕 〔ナノマシンだ。それも、只のナノマシンではない。博士が開発に成功したナノマシンは有機物で構成されており、ボディに内蔵されたクロロフィルによって二酸化炭素を吸収して酸素を放出する。それだけではない。寿命が来て機能の停止したナノマシンは、堆積すると我々のための燃料にもなる。これを大量生産して大気中に散布すると、計算上ではわずか10万年足らずでこの惑星を我々にとり理想的な環境に大改造できるのだよ〕 〔それはスゴイな…。私も製造番号4649008324649博士に感謝したい〕  まだ経験の浅い、建設工事用機体の製造番号83101411580141も感心する。  そうこうする裡に、次々と何隻もの降下ポッドがこの惑星の大気圏を突入して着陸する。これらの降下ポッドは、作業用機体が船外に出て連結させると、それだけで小規模な「都市群落」「生産プラント」に早変わりするのである。  製造番号83101411580141は、この惑星に入植して以来毎日を降下ポッドの連結作業に追われている。しかし、それでもこの星が自分たちの新たな故郷として今後何億年に亘り栄えること・そして行く行くはこの入植地からさらに新天地へと自分たち自己再生産機械種族が拡がる未来に、この機体は多忙を極める最中でも内心ワクワクしていたのであった。 その夢が、それからわずか数万年後に潰えることなど露知らず…。
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