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――土曜日――
萌は晴れ晴れと目を覚ました。なぜならば今日で1dayコンタクトが終わりとなるから。
開店時間と同時に先見堂には電話して、婆ちゃんが復調したこと、新しいコンタクトが届いていることを確認した。
最終日だと思うと、部屋にいる枕返しの頭も撫でてやりたくなる。北条とも眼鏡屋への道中で落ち合う約束をした。
自動扉が開き、北条と萌が二人で入店する。着いて早々、萌は老婆に飛びついた。
「二週間待ちに待ったよ、婆ちゃんを。前回とんでもない不良品を寄越すんだもの」
「なんだ事前に試着させてやったろ。見づらかったのかい?」
「違う……見え過ぎて困ったの」
「良く見えたら結構なことじゃないか。しかも、急ぎだったら他の店で買えばいいこったろ。既製品なんだし」
老婆はコンタクトの箱の側面にある度数を指し示す。
「それはパニックになり過ぎて思いつかなかった……」
新しいコンタクトレンズを出してもらい、最後の呪われたコンタクトを捨てて、すぐに目につけた。装着後に店内を見渡して、妖怪がいないことを確認する。
婆ちゃんの訝しげな視線を無視して、店前にでて左右の道路を見渡す。妖怪がいない! 途中死にそうな目に遭いながらも、二週間を乗り切れた。
萌は北条の手を取り、上下に振りながら
「あんたもその野暮ったい眼鏡を外して、コンタクトにしなよ。格好良くなるよ。元が良いんだからさ」
と上機嫌で言った。
無関心な北条の肩を、婆ちゃんががっちり掴む。新規顧客を逃してなるものか、と洗面台まで連れていく。北条は仕方なしに眼鏡を外した。鏡を見て、格好いい? と首を傾げる。
萌は北条の整った横顔に見とれた。食事制限のおかげで、重なっていた顎も一つになっている。
【レンズの先にいたのは恐ろしい妖怪だけじゃなかった。あたしは学校一のイケメンも発見したぞ】
萌は幸せだった。北条が婆ちゃんに勧められたコンタクトを、恐る恐るつけて、次の言葉を発するまでは。
「おおっ、とうとうダイエット効果が。そこに百々目鬼がいる! さすがコンタクトレンズだ。はっきりと見える。店主、店にあるコンタクトを全て売ってくれ!」
萌はがっくりと肩を落とした。そして、あの目だらけ妖怪って百々目鬼って名前なんだ、と思った。
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