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――木曜日――
北条のアドバイスを受けてからは、萌は心に余裕ができた。火・水曜日は妖怪を歯牙にもかけない、という程ではないが、気を取られずに過ごせた。
今朝などは枕返しに、「おはよう」と声をかけれたぐらいだ。長髪のおじさんは面白くない顔をして、部屋の隅に消えていったけど。
コンタクトの枚数もあと二日分。土曜日のレンズで終わり。
放課後、萌は奇々怪々会の部屋にいった。北条に苺クッキーを作って、持ってきたのだ。「ほれ。お礼」と萌が、椅子に座る北条に菓子を渡そうとする。
「感謝する。有難く受け取るが、今は食べん。節制を続けているんでな」
萌はハッとして彼の様子を確認する。顔痩せ、と疲れからか物憂げにみえる瞳。イケメン度がぐぐっと上昇していた。
そういえば。クラスの女子が「青白い顔をした美男の霊が、校舎三階に深夜あらわれる」と噂していた。それは北条のことなのではないだろうか。あのダイエット話を真剣に受け止めたのか……
「ちょ、ちょっとは食事しているんでしょうね?」
「飢え死にしない程度には。昨日の夜はカツカレー一杯に留めた。普段、五杯はお代わりするんだが。ダイエットってこんなに苦しいものなのか」
「心配して損した。どれだけ代謝がいいんだよ。あたしの作ったクッキーも食え」
北条は手のひらを萌にかざして、拒否の姿勢をみせる。
「今は遠慮しておく。妖魔を見えるようになったらいただくよ。それより、どうだ彼らへの対応は? 順調なのか」
「お陰様で。枕返しも座敷童も害のない妖怪だからね。今朝は座敷童と毬を投げ合ったよ。そう言えば、塾帰りにべとべとさんに出くわした」
「夜道を歩く人間の後をつけてくる妖怪だな。足音も気配もあるけど、姿が見えない。べとべとさん先をお通り、と言ったのか?」
「うん。北条の妖怪ノートに書いてあったからね。そうしたら足音も消えた」
羨ましいぃ、と北条は顔を紅潮させ、全身をわななかせた。鼻息が荒くてせっかくのイケメンが台無しになる。
帰宅後、萌は先見堂に電話してみたが繋がらなかった。
まだ婆ちゃんは高熱にうなされているのだろうか。土曜日には開店することを祈りながら、彼女は床に就いた。
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