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修羅畜生界では、闘争心を持つ者たちで競い合っております。 車に乗り競争してほとんどは負けて悔しがり、たまに一位を獲得して、他人より優れていると思い慢心しております。 また、建物や田畑を作ることなどもできるゲームがありますが、せっかく作った創造物を他人が爆破させスッキリさせている有様でございます。 またまた、銃をかまえ、相手をキルして諂り、罪人たちからは微かなため息ばかりでございます。 三度の者は、飛行機で殺し合い、陸へ落とされ剣の山の針に口刺しになっているのでございます。 さまざまな虚像により、疲れ果てているのでございましょう。 ここへ落ちてくるほどの人間は、肉体をカプセルに保存してAIと直接繋いで責め苦から開放されるよう判断したのでございます。 境涯から逃れ痛みを伴わず、鳴き声を出す力すら失っているのでございます。 カプセルの中にある液体につけられた肉体を覗いてみますと、身長は小柄になり細々として頭部だけ大きく灰色の肌で顔には大きな目が釣り上がり、口はへの字で鼻はなくなり毛がありません。 食糧を食べることもなく最低限の栄養や排便の機能が備わっており、カプセルから出て生活することはできないのでございます。 アバターの中には、メタバース空間を創るためひたすらに仮想の空間にて一日中プログラミングをしてエリア構築、武器の配布、狂暴な動物、ボスなどを作って、目先の利害のみで報酬をうけ行動し続けている者までいるのでございます。 自己を破滅させ永遠にプログラムし、苦しみいつの間にか自分がカプセルに浸かりメタバース空間にいるのでございます。 そんな地獄のような場所にカンダタがおりまして、肉体があったことを忘れて、バーチャル空間にてアバターを着せ替え、血の池底に潜んでHPを削りながら、死にかけのゾンビのように、唯もがいているばかりなのでございます。 みな、静まり返っており、カンダタも例外ではなく、自分が生きるために弱肉強食の生存競争に終始しライフは残るところ1でございます。 そんな窮地のことでございます。 なんとなく、カンタダは血の池に潜みながら空を眺めますと、そのひっそりとして暗の中を、遠い遠い天上から銀色の蜘蛛の糸が、まるで人目にかかかるのを恐れるように、一すじ細く光りながらするすると自分の上へ垂れて参るではございませんか。 カンタダはこれを見ると、思わず手を拍って喜びました。 この糸に縋りついて、どこまでも昇って行けば、きっとこの世界を抜け出せるに相違ございません。 カンダタはこれが噂に聞く、最強の天使の梯子。チートツールで、極楽郷へいくことが出来ましょう。 そうすれば、血の池に怯えてゾンビのように生活する必要も、針の山に口刺しに成ることもございません。 こう思いましたからカンタダは、早速その蜘蛛の糸を両手でしっかりと掴みながら、一生懸命に上へ上へとたぐりのぼり始めました。 もとは、登山やスポーツをしていたのでこういう事にはむかしから慣れ切っているのでございます。 しかし、修羅畜生界と人間天上界との間は、何万里とございますから、いくら焦って見たところで、容易に上へは出られません。 ややしばらくのぼる中に、とうとうカンタダもくたびれて、もうひとたぐりも上の方へはのぼれなくなってしまいました。そこで仕方がございませんから、先一休み休むつもりで、糸の中途で、ぶら下がりながら遥かに目の下を見下ろしました。  すると、一生懸命にのぼった甲斐があって、さきまで自分がいた血の池は、いまではもう暗の底に何時の間にかくれております。それからあのぼんやりしている針の山も足の下になってしまいました。 この分でのぼって行けば、修羅畜生界からぬけ出すのも、存外わけがないかも知れません。カンタダは両手を蜘蛛の糸にからめながら、ここへ来てから何年も出した事のない声で、「しめた。しめた。」と笑いました。ところがふときがつきますと、蜘蛛の糸の下の方には、数限もない罪人たちが、自分ののぼった後をつけて、まるでゾンビの行列のように、やはり上へ上へ一心によじのぼって来るではございませんか。 カンタダはこれを見ると、驚いたのと恐ろしいのとで、暫くは唯、莫迦のように大きな口を開いたまま、眼ばかり動かしておりました。 自分一人でさえ断れそうな、この細い蜘蛛の糸が、どうしてあれだけの人数の重みに堪える事が出来ましょう。 もし万一途中で断れたと致しましたら、せっかくここまでのぼって来たこの肝腎な自分までも、元の地獄へ逆落しに落ちてしまわなければなりません。 そんな事があったら大変でございます。 が、そういう中にも、罪人たちは何百となく何千となく、まっ暗な血の池の底から、うようよと這い上がって、細く光っている蜘蛛の糸を、一列になりながら、せっせとのぼって参ります。 いまの中にどうかしなければ、糸は真ん中から二つに断れて、落ちてしまうのに違いありません。 そこでカンタダは大きな声を出して、「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は己のものだぞ。1人ずつ登ろう」と喚きながら、掴んでいた手を離して血の池までまっさかさまに降りました。 「1人ずつ登ろう」と、罪人のアバターゾンビに相談をしました。 その途端でございます。 ライフ1でなんとか100年血の池に潜んで長寿の称号を手に入れていましたが、罪人の1人が剣山の槍で人思いに刺してしまいました。 カンタダは、敢なくゲームオーバーとなり仰向けで上空を見上げてると、いままで何ともなかった蜘蛛の糸が、急にぷつりと音を立てて断れました。 断れた蜘蛛の糸は、きらきら細く光りながら、月も星もない空を舞い切れはしが、カンタダ目掛けて降ってきました。
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