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カンダタは、ガサツに鬘の編み方をしていたが手先は器用であり、あっという間に完成した。死者の髪から編んだ老婆の鬘は、枯れた花のように色褪せていた。 カンタダの鬘は、銀の蜘蛛の糸から巧みに編んだまばゆい光を放ち、光沢に満ちた美しいものとなった。 「私の鬘は、過去の不幸を乗り越え、銀の蜘蛛の糸で編んだ。この鬘は、未来への道を示している。」自灯明なる確たるものが、カンダタから漂っていた。 老婆は、その鬘をみて思索に沈み、鶏を絞め鋭い刃で首元を血抜きし、藻掻き藻掻いて、途絶えそうな声で、「それを、わしにくれ。それを質にだせば、わしは、わしは金持ちになれる。」 と、鋭い眼から深い闘志を燃やし、一抹の抗いがうかんでいたが、突如として、老婆は無情の存在となった。 その姿は、煮た蛙のように白い目をしてピクリとも動かなくなり、死体の山の一つとなった。 カンタダは、暫く足を止め老婆をじっくりみて、鶏のようなひょろひょろの足と腕にさっき編みおえた鬘だけを虚しく握っている。 カンタダは、下を向き悲しげな顔をして、そっと老婆の目を綴じ土に伏せた。 作者はさっき、「雨にふりこめられたカンダタが、行き所がなくて、途方にくれていた」 と書いたが、途方にくれていたがカンダタは行き場を見つけ、法灯明の信念をカンダタは心得た。 しかし、その行き先を問われると分からず、行き着く先も行方不明。 だた、カンタダのルサンチマンもそれに合わせ晴れた。苦心数十年ようやく成功の曙光がみ、雨が上がる景色があった。 ――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考え藻掻いていたが、大宮大路には、虫たちや鳥たちも合わせ鳴き、、鮮明にそれを聞いていたのである。  生命の生存の生活は、陽明門をつつんで、遠くから、云う音をあつめて来る。朝明は次第に空を高くして、見上げると、門の屋根は、建て付きは道理に適っており、軽いうす明るい雲を支えている。  どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑はない。 選んでいれば、築土の下か、道ばたの土の上で、饑死をするばかりである。 そうして、この門の上へ持って来て、犬のように棄てられてしまうばかりである。 ――カンダタの考えは、何度も同じ道を低徊したが、やっとこの局所へ逢着した。 そうして、光沢のある鬘を握り黙々と歩きはじめ、陽明門を潜りぬけた。
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