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修羅と畜生の世界では、秀でることが存在意義となっていた。 生存をかけた殺し合いは、ライフを削り血の池のゾンビとして身を隠す有様だ。ただ、消えたくないために他人を利用し蹴落とす。 ところが、蜘蛛の糸でスイッチが入った。 カンダタは、自身の命など取るに足らぬ所存で、「くれてやれ、全部くれてやれ。」そう結論づけ蜘蛛の糸から降りたのだ。 誰よりも先にのぼるため罪人共が、カンダタを活かせしてくれた。 空から降ってくる雨のように、全ては与えられていた。 そして、カンダタは罪人どもの考え、平凡さや哀れみ、そして悲しみを身を持ち実感したのだ。 執着する存在が、かつての自分であり罪人どもであった。 蜘蛛の糸が鍵となったが、蜘蛛の糸は鍵でしかなく、光沢のある美しい鬘に変わり、こうして強く握りしめ、颯爽と地面をカンタダは蹴っていた。 おおよそ数海里は、こうして走っただろう。 すると、向こうから外車の車に乗った和尚さんがカンダタの前で車をとめる。 人里離れた曲道まできたのだが、慌てた様子で頭を剃り上げ目元にはくまがあり顔は垂れ口はへの字でも抑揚のないお経でも唱えた声で、「その鬘を、その鬘をくれんか」と辺境の路の林に余韻が残る。 雨の中、夜どうし編んだ鬘に少なからずの愛着はあったが、血の池の糸を中途までのぼってから降りるように蜘蛛の糸の鬘を手放し、和尚さんに鬘にわたす。 すると、和尚さんが抑揚のない声で「この車をやる、その代わり家の近くに降ろしてくれ」とボソボソ呟いた。 カンダタは、陽の出る東に向って走っていたが、はっきりどこに向かっているか分かっていないため、和尚のお願いを断る道理もなく、和尚の寺に2人で車に乗りカンダタが運転をする。 車に乗り込むとすぐに、への字の下唇だけが引力に歯向かわず喋りだす。「いやーなんとも綺麗な鬘だな。実は、不倫しておってな、坊守、ああ奥さんや近所で噂になってしまってな。あの車で出かけるときは、ランデブーしているんだ。最近は、あの車で出かけるときは、坊守が怒ってな。ちょうど車を売りたいと思っておった。それにくわえ、綺麗な鬘まで手に入るとは、これでバレないように不倫ができる。ありがとう。」 坊主の丸儲けとはよく言うが、あながち間違いではないようだ。 「こちらこそ、こんな立派な車をありがとうございます。」 それ以上、会話することが見つからずカンダタは沈黙していた。 幾分かすぎると、地球に吸いつくように和尚が 「色即是空 空即是色。とはいうものの。御釈迦様も色には悩まされ、五蘊でも色、六識でも色、7つの境色でも色。女の人で悩んでいたことがわかる。そもそも、女性とランデブーしなければ、わたしたちは生まれてこない。欲は良く使えば良い。これが私の説法だ。バレないように上手に不倫すればいい。君は車のことは恩にきることはない。売ったことにするから、家についたらすぐに立ち去ってくれ。お互い名前を聞くのもよそう」 と、への字が上にあがり寺の近くで和尚は降り、手で虫を払うような仕草であっち行け仕草をして別れた。
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