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夜通し運転をしていたため、カンダタに睡魔が襲っており、道の駅でキャンピングカーを停め、ベットでぐっすり眠りだした。 カンダタは寝そべりながら、いままでのことを振り返っていた。血の池にいて門を潜り、東に向かいいまに至るわけだが、それに合わせてかつての自分は自分だったのか疑問が浮かぶ。 争いあって壊す。その繰り返しで、自分のいまではまるで夢の中の幻に思えた。 そんなことを頭の中で考えながら寝むった。 朝起きると、まるで別世界で状況が飲み込めない時がある。 カンダタも例外ではなく、すこしばかり現実がわからなくなっていた。 そこにシーツと布団があり、「そうだ、ここはキャンピングカーの荷台」と自我とともに目覚めていた。カンダタは、「こんなにぐっすり寝れたのはいつぶりだろう。」とつぶやき、なんの心配もなくいまを迎え、起きたことへの幸福を味わっていたが、尿意に襲われいたた。キャンピングカーから外に出て、道の駅のトイレへ慌てて向かっていた。尿をすませ、いまは、ちょうど牛の頃、太陽が南にちょうど位置している。 エンジンをつけ、太陽が沈む方向と反対に車の舵をきる。ときは、カンダタにとって意味をなさなくなり、夕暮れにちょうど差し掛かっていたころ、休憩がてら小さな川辺の駐車場に停めて、川で半身浸かって、鮎釣りをしている1人の男を眺めている。その男を遠目に眺めつつ、近くのベンチにカンダタは腰掛け、少しばかり思い詰め、「東に行って一体何があるのだろうか?」と、せせらぎの気持ちよさではない、濁流のようなカンダタがいた。 濁流は激しさをまし「ここは幾分か血の池やあの門よりマシだが、果たしてまたあの世界に出くわすかもしれん。誰か、私を安心させてくれるものはおらぬものか?」と、晩が近づくにつれて、寂しさも連れてきてしまったようだ。 しかし、すぐにカンダタは、川のせせらぎのいまの音に耳を傾け、また、太陽が山の稜線に沈む美しさに目を向け、こころを落ち着かせていた。 物思いに耽けていたカンダタは目を閉じ、なんとも、静かで懐かしい好い匂いに包まれていた。そして、それはあの整った光沢のある娘さんの笑顔に似ていた。 カンダタは、完全に落ち着きを取り戻し、目を開けると、半身川で浸かっていた鮎釣りの男が、全身川で溺れ、バタバタ藻掻き、まるで、血の池で浮いては沈む以前のカンダタのようであった。 カンダタは、かつての自分ではなく、焦ることも、取り乱すこともなく、落ち着き静かに立ち上がって、川辺の近くへ行った。 すぐさま近くにある三寸くらいの太さので一丈半ほどの流木を手に取り、鮎釣りの男が掴めるようにした。 幸い流れはそこまで速くなく、鮎釣りの男は、流木にしがみつき、カンダタは、手繰り寄せて、鮎釣りの男は、石のある浅瀬につき、急死に一生を得た。 息が整ってきた鮎釣りの男は、「いやー、足を滑らせ川に流され、足を攣って溺れてしまった。本当に助かったよ。」と、カンダタに深々と頭を垂れている。 カンダタは、一命をとりとめた鮎釣りの男を見て「お礼には及びません。私は、東へ向かいたいので、これにて、お暇します」といったが、鮎釣りの男は「これこれ、そこの男。助けただけですむと思うな。ほれ、こんなに鮎が釣れた。召し上がってくれ。」と胸をはり、その体は丈夫そうで溺れたことが嘘のようだった。 カンダタは、急いでいる旅でもなかったので、この鮎釣りの男の家についていった。鮎釣りの家は、すぐそこの小道を行ったところにあり、立派な家と広い田畑があり、母屋と離れ小屋があり、離れの小屋に案内された。 そして、つくや、いなや、鮎釣りの男は、慣れた手付きで小さな囲炉に薪をいれ、火をつけ網を引き、鮎を5匹ほど塩を薄めにまぶし焼いた。 「3匹食ってええからな」と、箸をカンダタに渡し、酒をごくりと飲んだ。わたしは、香ばしい匂いに誘われ頭から食べ、「うまい。苦みが美味しい」と笑みになっていた。 男も満面な笑みになり「おれはいま決めた、ここであんたとあったのもなにかの縁。この家や田畑をお前に借してやる。軽トラもやる。その代わりキャンピングカーをくれ、オレは一度日本を一周したかった。西にむかってみる。」と、酔いが回り立ち上がり威勢よく粋こんで、さらに「私が帰ってくるまで、この家とうらにある田畑をお前にあずけるよう。」 こうして、カンダタは、キャンピングカーと立派な家と広い畑を交換した。 鮎釣りの男は、溺れたことも忘れ、お酒を飲んでいるにも関わらず、キャンピングカーに乗って出ていった。 カンダタは、この家の持ち主を待つこと十年は経ったが、一向に鮎釣りの男は帰ってきませんでした。 カンダタも田畑や立派な家の生活、そして近所の人たちと幸せに暮らし不自由していなかった。
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