砦の夜

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 石造りの古びた砦。  その見張り台に、俺は居る。  今夜は、満月だ。  夕方、少し雨がぱらついたが、夜を迎える頃には無事に晴れた。  周りは、ごつごつとした岩が転がる。背の低い草木が、所々生えている。風の強い、見晴らしのいい、国が境をせめぎ合う、危険な場所。  満月の夜の見張りには、人気がある。 「俺の番と替わってくれよ」 と、言われても、 「夜、晴れるとは限らないだろ」 と、皆、上手く断る。  満月の夜は、昼の様に明るい。  昼程に明るくなくとも、すっかり辺りを見渡せる程、明るい。この明るさの中で動くやつはいない。 「敵、発見!」 などと、声を張り上げずに済む。  美しい、金色の女神。  どうか、このまま、穏やかに、朝を迎えさせて下さい。
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