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嘘と記憶
体が重い。段々意識が朦朧としてくる。瞼が閉じそうで、だけど僕は必死に開けた。瞼を閉じてしまえば、きっと僕は永遠の眠りに付いてしまう。そんなの嫌だ、絶対に嫌だ。そう思いながら、高くて白い天井をじっと見つめた。
「おっ! ××! 見舞いにきたぞー!」
親友の△△がそう告げる。僕の異変に気付いたのか、大丈夫か? とたずねてくる。大丈夫だよ、と言うが、顔が青白いじゃん、先生呼んでくると部屋を出ようとする。待って、と僕は止める。
「傍にいて」
僕が我が儘を言うと、困惑しながらも呆れた顔でいいよと、病室のベッドに寝転がっている僕の隣に椅子を置いて座った。そして青白く段々冷たくなっていく僕の手を、暖かい手で握ってくれた。僕は、それが嬉しくて思わず涙が溢れそうになる。
「ねぇ、あの日の事覚えてる?」
うん、と△△は頷いた。あの日と言っても、どれか分からないくせに。そんな風に思いながらも、淡々と話を続けた。
「あの日さ、僕お前の事好きって言ったじゃん?」
そうだね、と目を細めて頷いた。
「あれ、嘘だよ」
そう言うと、いつもより少なかった、生体情報モニターの数字が段々低下する。それを見て驚いたのか、それとも僕の言葉に驚いたのか分からないけれど、君は驚いた。ピーピーピー! と機械の音が煩い中僕は大きな声で言った。
「僕っ……君の事が大嫌いなんだっ……!」
言いたい事を言って、笑った。溢れるほど涙が出る。僕は目を瞑った。もう、良いんだよと自分に言い聞かせて。
――……ごめんね、嘘だよ。本当は愛してるんだよ。
そう心の中で呟きながら、瞼を閉じた。少しでも良いから君の中に僕がいて欲しかった。だから僕は嘘を付いた。
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