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夏と影
夏が大嫌いだ。
――……ミーンミンミンミンミンミン
気温、38度。聞こえる蝉の大合唱と、救急車のサイレン。テレビで何度も言われる、猛暑日となるでしょう、水分補給をしましょうと言う言葉。気温が暑いからか、それとも何度も繰り返される言葉のせいか、意識が朦朧とする。
近くにある駄菓子屋のベンチに座り、腕で汗を拭う。ため息を付いて、地面を見つめる。髪から、額へ、顎へ、地面へと汗が流れ落ちていく。運動したのか? とたずねられそうなくらい、汗をかいていた。思わず深いため息がこぼれてしまう。すると、突然頬に冷たい何かが触れた。
「ふぁっ?!」
変な声が出る。何だよ、その声! と笑う彼は、両手にアイスを持っていた。驚かすなよ、と呆れたような顔をして僕は笑った。そのアイスあげる、と彼――僕の親友はアイスは渡した。
「ドロッドロじゃねぇかよ」
「仕方ないじゃん? 暑すぎて、溶けたんだよ」
世間話をしながら、ドロッドロに溶けているアイスを食べる。温いかと思っていたが案外冷たかった。
「もう夏休みだね、何か予定あんの?」
うん、と頷いた。へぇ、と聞いたのにも関わらず興味を示さなかった。何なんだ、コイツ。その予定って? と興味は示していないが、沈黙に耐えきれなかったのかたずねてくる。墓参り、くらいかな。下を向いて、呟いた。
暑苦しい太陽が、僕等を照らす。日陰だったのに、座っていた所が日陰じゃなくなり、やがて僕の目の前に僕の影が出来た。
「墓参り、ねぇ……?」
アイスを食べながら親友は苦笑した。親友の目の前には影が出来ていなかった。
――……これだから、夏が大嫌いなんだ
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