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「こんばんはー、RYOちゃんねるでーっす」
夜道でスマホを掲げる。
件の公園はすぐ目の前だ。古びた住宅街の片隅に、ひっそりと添えられている。
錆びた遊具がこれまた錆びた柵で囲われており、ところどころには貧相なトネリコの中木が間仕切りのように植わっていた。
「てことで頭黒公園に来ました! まじボロすぎじゃね?」
陰気な映像を軽薄なトークで塗りつぶす。
現在の視聴者は六人だった。リアルタイムで楽しませなければ、すぐに見切りをつけるだろう。
「実はコメントでライブ配信のリクエスト貰ったんですよ。なんと、報酬四万!」
公園に入る。
ハンドライトの光を滑らせると、遊具と木が交互に浮かび上がった。
立ち入り禁止の黄色いテープが貼られた滑り台も、鎖が片方ちぎれたブランコも、この公園で遊ぶ者がいなくなって久しいことを感じさせる。
「リクエストしてくれたルカさん見てるー? なんでこんなボッロい公園に呼び出したんですかー?」
張本人であるルカ520からのコメントは来ない。
ざわめく心に反比例して、声はますます陽気になっていく。
「あっ、ガチの変態とかは勘弁ですよ。皆さーん、俺が襲われたら通報よろしくです!」
全てが死んだような夜だ。
住宅街が近いにもかかわらず廃墟のような静けさである。およそ生命の気配がない。
ふいに、スマホ画面に文字列が現れた。
『ユッキー:今の何?』
視聴者から初コメントだ。
「おお、ユッキーさんはじめまして! えっと何か映りました?」
人の存在感にホッとしながら、スマホを掲げてくるりと振り返る。
『hinoe_s:木の枝でよく見えない』
『原裂啓二:そっちじゃないバカ さっきの映せカス』
『**mia**:何かいたよね……?』
コメントが伸び始めている。
「ちょっ……何かってなんスか。俺、心霊系あんま強くないんですけど――」
動画がこれほど注目されるのは初めてだ。
嬉しさと薄ら寒さとがない交ぜとなり、奇妙に高揚した。
『ユッキー:雲梯で誰か遊んでる』
振り返る。
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