ルカ520

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 雲梯などあっただろうか。剪定されていない木の枝の合間から見えるのは、片方の鎖がちぎれたブランコだ。 「ブランコ……じゃ、ない?」  近づいていく。  安物のライトで鉄の支柱をなぞると、確かに雲梯だ。ずいぶんと背が高いのと暗いのとで見間違った。  しかし、だとしたらあの鎖は。 「……は」  喉が掠れた音を漏らす。  手からスマホが滑り落ちた。  (くう)を照らす小さな液晶画面の中では、狂ったようにコメントが流れている。俺は承認の濁流を浴びながら、湿った土に膝を着いた。  首吊り死体だ。  痩せた青年が雲梯で揺れている。零れそうなほどに目を剥き、赤くぬめった舌を突き出して。  張りつめた風船のように全身をこわばらせ、汚れたスニーカーの先端までピンと突っ張っていた。  緩慢に揺れるつま先が小さな円を描く。  その軌道中に二・三度痙攣したかと思うと、途端に力が抜け落ちた。  ほどなく、夜風がぬるい尿の臭いを運んでくる。 「うぐっ……」  二時間前の晩飯がせり上がった。  嘔吐する俺の横で、スマホが淡々とメッセージを受け取り続けている。  その一番上に表示されているのは、ひときわ目立つ赤枠だ。 『ルカ520:¥40000』 *
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