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雲梯などあっただろうか。剪定されていない木の枝の合間から見えるのは、片方の鎖がちぎれたブランコだ。
「ブランコ……じゃ、ない?」
近づいていく。
安物のライトで鉄の支柱をなぞると、確かに雲梯だ。ずいぶんと背が高いのと暗いのとで見間違った。
しかし、だとしたらあの鎖は。
「……は」
喉が掠れた音を漏らす。
手からスマホが滑り落ちた。
空を照らす小さな液晶画面の中では、狂ったようにコメントが流れている。俺は承認の濁流を浴びながら、湿った土に膝を着いた。
首吊り死体だ。
痩せた青年が雲梯で揺れている。零れそうなほどに目を剥き、赤くぬめった舌を突き出して。
張りつめた風船のように全身をこわばらせ、汚れたスニーカーの先端までピンと突っ張っていた。
緩慢に揺れるつま先が小さな円を描く。
その軌道中に二・三度痙攣したかと思うと、途端に力が抜け落ちた。
ほどなく、夜風がぬるい尿の臭いを運んでくる。
「うぐっ……」
二時間前の晩飯がせり上がった。
嘔吐する俺の横で、スマホが淡々とメッセージを受け取り続けている。
その一番上に表示されているのは、ひときわ目立つ赤枠だ。
『ルカ520:¥40000』
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