変わり身

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ビービー、ビービー。 彩華の携帯が鳴る。 「はい、もしもし」 「山口彩華さんのお電話でしょうか?」 「はい、そうですが」 「こちら水川総合病院ですが、岡田香織さんが運ばれたのでご連絡しました」 「えっ? 本当ですか? 直ぐに向かいます!」 彩華は電話を切り、仕事を早退した。 彩華の職場から水川総合病院までは30分かかる。 「タクシーで行くか」 彩華は道路にタクシーが走っていないか見るが、今日に限って車すら走っていない。 「今日に限って車も人も少ないわね」 5分ほど待ってようやく1台のタクシーが走ってきた。 「タクシー! 私、乗ります!」 彩華が思いっきり合図を送ると、タクシーは歩道に寄せて停車した。 「すいません、水川総合病院までお願いします」 「かしこまりました」 彩華は車内にいる間、スマホを見ながら時間を潰した。 心の中は不安と心配でいっぱいだったが、気にしてもネガティブになるだけだと自分に言い聞かせた。 タクシーの運転手は小さな音でラジオを流していた。 「本日のゲストは福富マルコさんです」 「よろしくお願いします」 彩華は聞き覚えのある名前に反応した。 「運転手さん、もう少しラジオの音を大きくして貰えますか?」 運転手はラジオの音量を上げた。 「マルコさんの占いはよく当たると噂になってますよね。何か特別な力でもお持ちなんでしょうか?」 「私はただ見えたことをお伝えしているだけなので、特別だとは言えないですね」 「見えるだけでも凄いですよ! ちなみに私のことは何か見えますか?」 「今朝、ご主人から浮気相手に向けたメッセージを送られて来て修羅場になりましたね?」 「うわー。私この話は本当に誰にも言ってないんですけど、何で分かったのかしら。先生、後で楽屋に相談しに行ってもいいですか……」 彩華は半信半疑だった昨日のマルコの一言を思い出す。 「まさか、違うわよね……」
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