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「独り身を馬鹿にされたみたいに見透かされた気にもなりました」 「そこまで落ち込んだの?」 「私だって落ち込むときは落ち込みます。今年になって一人きりのクリスマスだとばかり考えていたんです」 「でも、俺と一緒に居れているじゃん」 「本当にありがたいです。はあ、モヒート追加しようかな」 「やけ酒するなよ」 「わかってます、セーブしますから」 客層のほとんどが二、三十代のカップルが多い。窓側の席に座る人たちの中には何かのプレゼントを交換している。久米はある事に気がつき、椅子の横に置いていた手提げ袋を彼に差し出した。 「これ娘さんにあげてください。クリスマスプレゼントです。前掛けとブランケットです」 「いいの?」 「はい。きっと気に入ってくれるかと思います」 「帰ってからの楽しみにしておく。ありがとう。そうだ、俺も今渡したいものがあるんだ」 彼もまたバッグから取り出して彼女に手渡しした。 「私にですか?」 「できれば今開けてほしい」 「……うわあ可愛い。ピアスじゃないですか」 「どんなものがいいのか迷っていた時、この間つけていたピアスを見て、新しいのあってもいいんじゃないかと思って選んだんだ」 「今、パウダールーム行ってきます。ちょっと待っていてください」 席を離れ近くの化粧室へ入り彼からもらった小ぶりのピンクゴールドのチェーンピアスを早速つけてみた。 「……お待たせしました。どう?似合ってますか?」 「うん。似合っている。チェーンチャームも取り外しができるから服装とかに合わせてつけれるよ」 「今月新しいワンピース買ったばかりなんです。アクセサリーどうしようか探していたんで、今度会った時にセットでつけてきます」 プレゼントひとつでこんなにも喜んでくれている彼女に、彼も胸を撫で下ろし、食事の続きをとっていった。 人は単純なほど隙を見せるといつもとは見せない驚いた表情をする。莉花にも毎年プレゼントを贈る際にも似通ったものが多くなり、結局は事前に聞いてから買うことが当たり前のようになってつまらなくなっていた。 久米のように気に入っている相手からさり気ない贈り物をもらうことが、その人の心を掴める意図が改めて理解した気がしていた。 悦び事一つで素直な反応をしてくれるほど、男も同じくらい新鮮に感じられるものなのだ。 ドリンクを飲み干す時の喉ぼとけの筋がやけに色気を醸し出し、ふっ、と顔がほころんでしまう。 平常心でいたいのに二度彼女を抱いたことが焼き付いているのか、身体の芯が心なしか熱を帯びてきて、気持ちもへと上書きされていくようだった。 「明日、あさってはご家族とクリスマスを祝うんですか?」 「ああ。その予定だよ」 「良いな結衣ちゃん。毎日パパとママの顔を見ながらお家で温かく過ごしているんだもんね」 「そんなにうらやましい?」 「はい。私も子供に戻りたい」 「結構酔ってきたな。デザートあるんだよ、食べれる?」 「もちろんです。女性は胃が三つありますから」 「どうして三つも?」 「一つは普段の食欲のため、二つ目は更に甘くておいしいものを食べるため……」 「三つ目は?」 「……性欲のため。いざ相手を食べたい時に隠し持っているんです。男性だってそうでしょう?」 「聞いたことないよ。一つの胃で全てを吸収するんだから、牛みたいに沢山あってもうまく消化できるかよ。おかしな人だな」 「良い例えというより、人ってそういう欲の塊だと思いますよ」 「まあ、そういう考え方もあるんだって懐に入れていくよ」 そうしているうちに、デザートが来て久米は子どものように目を輝かせていた。 「可愛い!フォンダンショコラ!ここの冬限定のなんですよぉ」 「二つ目の胃が騒いでいるみたいだな」 「待ち続けてよかったぁ。早く食べましょうよ」 「ああ」 食事を済ませた後、大通りに面した街路樹のイルミネーションを見ながらしばらく二人は歩いていた。久米は少しだけ手先が冷たくなり両手をさすりながら温めているのに、輝はその片手を触れると、素早く手を離した。 「誰か……知っている人でもいたらヤバいですよ」 「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。ほら、繋ごう」 「じゃあ駅までなら……」 繋いだ手が次第に温かくなり、輝は彼女の指の間をくくると、絡めた指先が互いの手の内側の温度をさらに上げていった。ひと回り大きく肉付きの良い彼の手。数分もしないうちに彼女は肩に寄りかかり腕を絡ませて、それに応えるように彼もまた優しく微笑み返していった。 地下鉄の連絡通路を通ると閑散とした空間が目の前に入り、足音だけが音域を広げて、二人は無言のまま寄り添っていた。やがてそれぞれの改札口に辿り着くと手を離し、また会う約束をして改札を通ろうとした時、彼女は彼の腕を引いて、帰りたくないと言い出した。 「今度は年明けだ。三ヶ日が過ぎた頃に時間が取れるから、また連絡するよ」 「そう……」 「そんなに悲しい顔しないで」 彼は彼女の額にキスをして頭を撫でると、彼女もまた微笑み返してきて、またね、と言うと、また今度、と返事をしてホームへと向かっていった。
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