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会社を出ると、オフィス街のビル群の上に丸い月が出ていた。
「そっか、今日はお月見だっけ……」
時々見上げながら小走りに駆けて、いつもの待ち合わせ場所へ行くと彼の車が停まっていた。
「お待たせ」
「おう。お疲れさん」
籍を入れてもう一年以上、式を挙げて半年ちょっと。
「大丈夫か。寒くないか」
「大丈夫。でも、そろそろコートとか、秋物も出した方がいいですね」
「そうだな。週末にやるか」
車が走り出して、まだ月はフロントガラスから見える。
「今日、お月様綺麗ですね」
彼が笑って、何かと思ったら
「いや、先に言われちまったから」
「あ……」
「愛してる、って意味になるらしいからな」
さらっとそういうことを口にするところは、結婚前と全然変わってない。
「……そういう意味で言ったんじゃないですけど」
「わーってるよ。全部がそうなったんじゃ、おちおち世間話も出来やしねえ」
「……でも」
「ン?」
「改めて考えたら、竜以外にはわざわざそんなこと言わないから、そういうことかな」
何気なく言ったのに、彼は黙り込む。
「……変なこと言いました?」
「お前なぁ……変わんねぇな。そーゆーとこ」
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