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「時子が学校をやめるなら、私もやめるわ」 「それはダメ!」  さっきまでの笑みを引っ込め、時子は先島さんの両肩を掴んだ。彼女たちはじっと見つめ合っていたかと思うと、先に折れたのは時子だった。 「分かった。先生方には私がきちんと謝罪をするわ。だから、須磨子は先に戻って」  時子は先島さんを先に教室から追いやり、一人教室でため息をついた。彼女は廊下に出ると、窓の外にいる女生徒たちに視線をやる。彼女の目には、涙が浮かんでいた。 「どこか、別の世界に行けたらいいのに。そしたら、噓をついた私を受け入れられる気がする」  時子はひとり呟くと、階段に向かった。そこには、今は新校舎にある姿見が取り付けられていた。 (この鏡は……?)  ミナミにも見覚えのある姿見の前で、時子は立ち止まった。鏡に触れ、ふっと息を吐きかける。曇ったそこに、時子はなにかを書いている。よく見ると、それは鏡文字だった。  たすけて。  たった四文字を書いて、すぐに時子はそれをかき消した。彼女は鏡に額をつけて肩を震わせると、顔を上げた。 「お前は誰だ」  鏡に触れ、鏡の中の自分を睨みつけながら時子は訊ねた。 「お前は誰だ! お前はーー」  その時だった。校舎に鐘の音が鳴り響いた。学校にあるチャイムの音と似ているが、もっとはっきりとした金属音だ。機械的ではなく、本物の金属を叩いて鳴らしている音が、あたりに響いた。 「お前は、誰だ。お前は誰だ、お前はっ」  鐘の音が鳴り響く中、時子は何度も鏡に映る自分に向かって唱え続けた。 「誰だ」  時子が言い終わる直前、鏡の中からぼんやり黒い影のような手が伸びてきた。あの手には見覚えがある。
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