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【逆鬼 プロローグ】
いつも同じ夢を見る。
深夜、暗闇に包まれた世界を、満月が照らしていた。学校の屋上は、施錠されて誰も入れないはずだ。そこでミナミは、なにかにおびえながら屋上のドアをただ見つめていた。
なににおびえているのかは、分からない。屋上のドアの向こうから、重たいものを床に打ち付ける音が響いてくるだけだ。
背後にあるはずの、転落防止用のフェンスはない。
「ミナミ、私を信じてくれる?」
隣にいるのは、幼馴染の穂香だ。ポニーテールにした彼女の長い黒髪が、風になびいている。
鈍い何かを打ち付ける音が止まり、ドアが開く。その向こうから出てきたのは、赤い影だ。はっきりと姿は見えないが、穂香もひどくおびえているのが、繋いだ手から伝わってくる。
赤い影を見て、ミナミは穂香と一緒に後ろ向きに歩いていく。フェンスのない屋上のへりに二人で立ち、穂香がいつも同じ言葉を口にする。
「私、本当は、あんたのこと……」
そのあと、彼女がなんて言ったのか、いつも聞き取れない。彼女に手を引かれ、体が宙に投げされる。
腹の底がせりあがる浮遊感に襲われ、ミナミは夜にしては明るい夜空を見上げる。覚えているのは、落ちてきそうなほど大きな満月と幼馴染の手の感触だけだった。
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