【二章】

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「穂香!」  ミナミは抑えられずに、声を上げた。トイレのドアを開けると、またドアを叩く音が聞こえだした。  個室に穂香が閉じ込められているかもしれない。ミナミはスマホのライトで、トイレの個室を照らしていく。  一番手前の個室、二番目、三番目――、順番に照らしていくが、すべての個室のドアが開いていた。 (それじゃあ、いったいどこから音が)  嫌な予感がして、ミナミは後ずさる。閉まったドアに背中が当たり、硬い感触に背筋が冷たくなっていく。  そのとき急に、水の流れる音がした。スマホのライトを当てると、一番奥の洗面台の蛇口から水が流れていた。  洗面台の前では、ポニーテールの女子生徒がじっと流れる水を見つめている。彼女の髪に付いているのは、穂香と同じ赤いヘアゴムだ。 「ほーー」  スマホのライトを向けたとたん、彼女はは消えてしまった。  幻だったのか、考えていると、再びドアを叩く音が聞こえてきた。その音は、ミナミがさっきまですがっていた背後のドアの方から聞こえる。  背中から得体のしれないものの気配を感じ、スマホを持つ手が震えた。逃げだすにも、ここはトイレの中だ。  いったい、廊下にはなにがいるのか。震える体を押し殺し、ミナミはゆっくり振り返った。  ドアを叩く音が、ぴたりと止まる。 「……どこにも行ったらだめ」  少女の声がした。穂香の声に似ている気がしたが、彼女ではない。 「誰かいるの?」  ミナミはドアの向こうに向かって、声をかける。返事の代わりに聞こえてきたのは、戸を叩く音だ。その音はミナミのいるトイレの内側から聞こえる。  スマホのライトをトイレの個室に向けると、さっきまで開いていたすべてのドアが閉まり、大きく振動していた。  誰かがここにいる。トイレのドアノブを回すが、鍵が閉まっていないのに開かない。 「誰か! 開けて!」  何度もドアノブをひねりながら体をぶつけていると、急にドアが開いた。廊下が見えた瞬間、ミナミの背中をなにかが突き飛ばした。  強い衝撃にミナミはトイレから押し出される。床に倒れて振り向くと、勢いよくドアが閉まった。
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