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廊下に座り込み、閉まったドアを見上げる。震える手を握り締めてスマホのライトをつけるが、薄暗い廊下で気持ちは落ち着かない。
今のはいったい何だったのか。ミナミは立ち上がると廊下を照らした。
震える手で照らした先に、白い運動靴を履いた足が見える。
「誰かいるの?」
かすれた声で、ミナミは呼びかけた。
ライトを徐々に上げていくと、そこには、小柄な女子生徒が立っていた。さっきトイレで見たポニーテールの少女とは違い、彼女は長い髪をおろしていた。
「大丈夫? 君もここに閉じ込められたの?」
話しかけたミナミは、そのことを後悔する。顔を上げた少女の顔には、目も鼻も口も点いていなかったからだ。
顔のない少女が、おぼつかない足取りで近づいてくる。
「私の顔、知らない?」
彼女はミナミの前に立ち、首を傾けた。その拍子に、糸がほどけた人形のように頭が転がり落ちる。
「やだ!」
とっさに、ミナミは少女の体を突き飛ばした。
「ねえ、あなたの顔をちょうだい?」
首から上がない少女は床を這いずり、ミナミの足首を掴んだ。その手を振り払い、ミナミは廊下を駆けだす。
振り向くと、大きな虫のようにカサカサと両手足を動かしながら、少女が追いかけてくる。
ミナミは廊下を走り抜け、階段を下りていく。校舎は暗く、混乱した頭では、どこを走っているのかさえも分からなくなってくる。
(とにかく、あの子のいる教室に行かないと)
頭では分かっているが、恐怖で足が止められない。階段を駆け下り、廊下を走りながら背後を見ると、首のない少女はいなくなっていた。
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