【二章】

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 ミナミは立ち止まり、スマホのライトで走ってきた廊下を照らす。耳をすますが、足音は聞こえてこない。誰も、追いかけてきていないようだ。  無我夢中で走ってきたが、ここはどこだろうか。すぐそばの教室を照らすと、一年二組と書いてある。  どうやら、二階を通り過ぎ、一階まで降りてきてしまったようだ。ここから、二年一組まで戻らないといけない。  あたりは静まり返り、薄暗い校舎には人の気配がしなかった。人ではない何かには会ったが、本当にここに穂香がいるのだろうか。  不気味な校舎を歩いていると、自分の足音が響く音さえ気になってくる。小さな音が人ならざるものをおびき寄せるようで、一歩一歩踏み出すたびに緊張で呼吸が乱れる。  二階に続く階段まで戻っていると、廊下に明かりが伸びていた。 (誰か、いる?)  階段を通り過ぎた廊下の先、あれは職員室だ。  早く一組までいかないといけないが、もしかしたら穂香がいるのかもしれない。それか、この世界に連れてこられたほかの生徒の可能性もある。  足音に注意しながら職員室に近づき、ドアガラスから中を覗き込む。照明にしては、明るさが足りない。豆電球よりもほのかな橙色の光りだ。  職員室内の電気は点いておらず、代わりに何本もの蝋燭が灯っていた。壁にかかった燭台の炎が、室内を照らしている。目を凝らすと、職員室の奥に人影が見えた。  軍帽をかぶった男が、背中を向けて立っている。詰襟のようなジャケットを羽織った背中は骨ばっていて、ハンガーでも入っているようだ。  痩せた男の背丈は天井に届きそうなほど高く、角ばった肩を丸めていた。 (あの赤い化け物じゃない)  逆鬼ではないが、不気味な空気をまとっているのは同じだ。本能的に、あれが人間ではないということは分かる。 (やっぱり、覗かなければよかった)  今さら後悔しても遅い。ミナミはつばを飲み込む音さえ聞こえる気がして、息を止めた。  このまま、静かに立ち去ろう。全神経を足先に集め、そろりと後ろに下がる。
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