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ミナミは立ち止まり、スマホのライトで走ってきた廊下を照らす。耳をすますが、足音は聞こえてこない。誰も、追いかけてきていないようだ。
無我夢中で走ってきたが、ここはどこだろうか。すぐそばの教室を照らすと、一年二組と書いてある。
どうやら、二階を通り過ぎ、一階まで降りてきてしまったようだ。ここから、二年一組まで戻らないといけない。
あたりは静まり返り、薄暗い校舎には人の気配がしなかった。人ではない何かには会ったが、本当にここに穂香がいるのだろうか。
不気味な校舎を歩いていると、自分の足音が響く音さえ気になってくる。小さな音が人ならざるものをおびき寄せるようで、一歩一歩踏み出すたびに緊張で呼吸が乱れる。
二階に続く階段まで戻っていると、廊下に明かりが伸びていた。
(誰か、いる?)
階段を通り過ぎた廊下の先、あれは職員室だ。
早く一組までいかないといけないが、もしかしたら穂香がいるのかもしれない。それか、この世界に連れてこられたほかの生徒の可能性もある。
足音に注意しながら職員室に近づき、ドアガラスから中を覗き込む。照明にしては、明るさが足りない。豆電球よりもほのかな橙色の光りだ。
職員室内の電気は点いておらず、代わりに何本もの蝋燭が灯っていた。壁にかかった燭台の炎が、室内を照らしている。目を凝らすと、職員室の奥に人影が見えた。
軍帽をかぶった男が、背中を向けて立っている。詰襟のようなジャケットを羽織った背中は骨ばっていて、ハンガーでも入っているようだ。
痩せた男の背丈は天井に届きそうなほど高く、角ばった肩を丸めていた。
(あの赤い化け物じゃない)
逆鬼ではないが、不気味な空気をまとっているのは同じだ。本能的に、あれが人間ではないということは分かる。
(やっぱり、覗かなければよかった)
今さら後悔しても遅い。ミナミはつばを飲み込む音さえ聞こえる気がして、息を止めた。
このまま、静かに立ち去ろう。全神経を足先に集め、そろりと後ろに下がる。
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