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「八城先輩! 部活、来ないんですか?」
教室を覗き込んでいたのは、ミナミが所属する陸上部の後輩だった。二年生の彼女はこうしてよく、ミナミを教室まで迎えに来る。
「ごめん、すぐに行くからって、みんなに伝えててくれる?」
「分かりました! 失礼します」
頭を下げ、後輩が去っていく。ミナミはリュックに荷物を詰め、立ち上がった。
「まだ引退してないの? わたしら、受験生だよ? そろそろ、勉強しないと」
「そうだけど……、うちは人数が少ないから」
「そんな言い訳してたら、痛い目見るんだからね」
急に不機嫌になり、穂香も荷物を持った。一緒に教室を出るが、穂香の機嫌は直らない。
「穂香はさ、なんでそんなに私が部活をやってるのが嫌なの?」
後ろを向き、背後を歩いていた穂香にミナミは言った。
昔から彼女は世話焼きだが、最近はそれだけではない。いつもピリピリしていて、趣味の配信の話をしているとき以外は、どこか不機嫌そうだった。
「部活なんてやってたら、受験に落ちちゃうじゃん。受験に失敗したら、最悪だよ? 一生落ちこぼれとして生きていく気?」
「そんな、大げさな」
ミナミは笑い、後ろ向きのまま廊下を歩き出す。
「大げさなんかじゃない!」
幼馴染の態度に、穂香は目を吊り上げて怒鳴った。ミナミはちょうど、階段上に来たところで立ち止まる。
「穂香だって配信して遊んでるけどさ、いつまで続けるの? 炎上でもしたら、受験に成功しても、就職できなくなるかもしれないのに」
「なんでそんなこと……。人の気持ちも知らずに、最悪」
俯いた穂香の顔が、廊下の窓に反射した光で眩しくて見えない。ミナミは目を細め、穂香に背を向けた。
階段横の柱に設置された姿見には、穂香が準備したフリップの文字が映っている。その文字は逆さではなく、反転して普通の文字になっていた。
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