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1-2
あれから、穂香は見つかっていない。最後に一緒だったミナミは、警察に何度も事情聴取を受けた。
何を聞かれても、穂香は突然消えたとしか言いようがない。はじめは疑われていたようだったが、話しているうちに友人が失踪したショックで記憶が混乱していると判断されたようだ。ひと月経った今では、幼馴染を失った可哀そうな子供として、ミナミは周囲から扱われていた。
(ほんとに、馬鹿ばっかり)
ネットではあることないこと、穂香の噂話をする書き込みがある。周囲の大人からの容疑が晴れても、事情を何も知らない人には興味をそそる事件でしかない。ライブ配信をしていた少女の失踪や幼馴染の存在について、ひと月経った今でも面白おかしく書き立てられていた。
スマホを消そうとしたとき、後輩からメッセージが来る。部活に顔を出すのかの確認のメッセージを読み、返信しようとした手を止めた。
穂香がいなくなってから、部活にも、受験勉強にも身が入らない。このままだとだめだと分かっていても、行方不明になった幼馴染のことが頭から離れなかった。
「どこに行ったんだよ」
彼女が消えた鏡の前で、ミナミは鏡に映る自分に話しかける。毎日ぼんやりしているせいで、勉強にも身が入らない。
「今日なんて、靴下反対に履いてきてたんだよ。笑えるでしょ?」
乾いた笑いを漏らし、ミナミは反対のままの靴下を彼女に見せるように、鏡に映した。
「本当にさ、私が謝るから帰ってきてよ」
ミナミは冷たい鏡に触れる。そのとき、ふと鏡の隅に人影が見えた。
「穂香?」
顔は見えないが、夜帳中学校の制服を着た女生徒だ。彼女はフリップを持っている。
ミナミはとっさに振り返ったが、誰もいない廊下が続いているだけだ。見間違いだろうか、もう一度鏡を見た。すると、間違いなく鏡には誰かが映っていた。
不気味になり、鏡から離れようとしたが、女生徒が持っているフリップに目が留まる。
「鏡文字?」
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