村の見回りという名の散歩

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「人間は間違える生き物だ。神だって、全てを救えるわけではないし、時には間違えてしまうことだってある。けれど、ね――」  緑の瞳に見え隠れする哀愁や、後悔にも似た何かは、彼が救えなかった命の重みを背負って来たことを物語ってもいた。  それでもきっと、彼はそれを乗り越えたからここにいるのだろう。翠さんの瞳は輝きを失ってはいないから。 「道を踏み間違えそうになってしまった時に止めてくれる誰かが側にいたならば、何かが変わるかもしれない。…………どんなに声を大にして叫んでも、言葉を尽くしても、行動で示したとしても、その言葉が届かない者も、相容れない者もいるかもしれない……それでも。誰かを思いやり、慈しむ心を失ってほしくはないんだ。施政者であるならば、為政者であるならば尚更、世界平和や共存共栄を綺麗事の絵空事だと諦めないでほしいとも思っている」 「当然だ。俺とて独裁者になどなるつもりはない」  即答したロードさんの表情が、それは本心からの言葉であると物語っていて……。 「理想と現実は違うことも理解している。それでもそれは、諦めてはならないものだと僕も思っているよ」  そう告げた父上殿の声にも表情にも迷いなんてなくて。 「子は国の宝。民が有ってこその国ですから」 「笑顔を失うことがないように、この力が及ぶ範囲を全力で守るのです」  護衛として同行してくれているセイさん(セイクリッド)とアルさん(アルヴィス)も、気持ちは同じらしい。  それを聞いていた翠さんは、とても優しい目をしていて……猫の姿でも穏やかに微笑んでいるように感じたんだ。 「……人間だった頃の俺は、世界の崩壊を止められなかった。けれど争いを終わらせたいとの願いは伝わったんだ。届いて……未来は変わった。だからこそ、この世界も誕生したのだと知っているから、諦めないでほしいと思うんだろうね」  翠さんが呟いたそれは、独り言に近かったけれど、俺にも聞こえたくらいだから、父上殿やロードさんにも聞こえていたと思う。 「翠・ウィンディア・ディアムーン……風帝ラファエル」  レイが俺にこっそり教えてくれたその名前が翠さんの正体のようだ。  風帝ラファエルって、風の属性神様じゃないか。  つまり……翠さんは、アッシュにお説教した帝天使様の一柱だ。
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