龍王神と風帝

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 エルドさんが『近場』と表現したように、アッシュ達でも和国くらいの距離なら数分で到着するだろうね。  アッシュ達のような神龍様を含む高位生命体からすると、一度行ったことがある場所なら転移で行けて日帰りが可能だし、飛行速度にしたって、魔力補給さえできれば基本的に食事を必要としない高位生命体とは、そもそもの基準が異なるから、神龍様達の基準は人間があまり参考にしてはならないものなんだよ。  さらに補足しておくならば、和国の住人――ほぼ龍族系みたいなんだけど、彼らは魔境の森と神樹の村があるあたりまでは入国審査とか無く自由に出入りが可能となっている。  現在でこそ地図上ではフォレスティライト王国の領地扱いである魔境の森だけど、元々ドラゴン達の狩場でもあったし、かつてエルフ王と龍王神との間で交わされた約束もあってそのように取り決めされているんだって。  和国の国王は建国当初から龍王神――それぞれの時代で属性王の神龍様達を束ねてきた歴代神龍王のうち、神話に名を連ねるような存在の転生体である神龍様の別称が龍王神なんだけど、そんな神龍様が治める国であるため、神殿と同じように悪事を企む者は結界に弾かれて入国できない仕様らしい。  それもあって、エルフ王がこのあたりを統治していた古来の時代から森の管理の一部――増えすぎた魔物の討伐を和国に委託してきた歴史がある。 「若もお嬢も、神樹の村で得た知識だけでは一般常識というものとズレが生じてしまうゆえ、そなたらも村の外の様子など色々と教えてやってほしい」  エルドさんが俺達の傍に移動して俺とレイの頭を優しく撫でながらロードさん達に告げれば、居合わせた彼らから肯定の返事。  こういう時、保護者やその周囲に恵まれたなと感じるんだ。 「それにしても、翠殿まで動くとは……チキュウのがうるさかったのでは? あれは創世神の中でも、元々が観測者タイプで世界にほぼ干渉せぬスタイルだったようですからな」  龍王神と呼ばれるほどの神龍であるエルドさんには、猫に擬態していても翠さんの正体はやっぱりお見通しだったみたいで、俺達の近くの浅いエリアで温泉を堪能していた翠さんに問いかけている。
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