龍王神と風帝

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「機械世界と魔法世界では、そもそもの基準も異なるから――ラビットがそう通していたから問題無いかな。……俺個人としても、失ってから後悔するのは可能な限りは避けたい」  そう呟いた翠さんの瞳に宿る哀愁のようなもの。  三度目の人生を生きている俺の前世の年齢を全て足しても、きっと翠さんか生きてきた時間には遠く及ばないだろう。  そんな気の遠くなりそうな時間を生きて、それでも人に寄り添ってくれてきたのが帝天使という存在のようだ。 「翠は、人間だった頃から優しすぎたようだから。異世界からの侵入者に滅ぼされた世界で、神の半分の力を与えられ生み出された神狼フェンリルでさえ瀕死の重傷を負った相手に生き残れたのも……覇帝となった初代魔王にまで『その心を無にしたくない』と言わせた程の優しさにより発動された、その発動条件に必要となる魔力量ゆえ禁術指定されるほどの対価を必要とする癒しの風に救われたからだ」  全帝モードになっているレイが独り言のように呟く。 「神風(かみかぜ)……覇帝がそれを二つ名に選んだ理由が、翠の前世にあたるラルド・ベリルに敬意を払ってだったからな」  レイのこれは、思い出に耽っている部分が強くて、全帝や帝天使達が共闘した世界の話をあまり知らない俺には、何のことなのかわからなかったけれど……。 「敵の剣に体を貫かれながら、それでも命が尽きるその時にも相手を憎まず、心だけでも救おうとしたお人好し……」  …………誰かを思いやり、慈しむ、その心がきっと――。 「だが、数多の世界の神や英雄達によって積み重ねられた想いは、人々に裏切られ堕ちた神の代行者に届いていたんだ。……憎しみの連鎖を断ち切る、許しと言う名の愛が……結果として世界を救ったのだから」  わざわいを転じて、福と為す……ということ、なんだろう。
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