賢者の教え

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賢者の教え

 温泉から出ると、海の方へと飛び立ち、慣れた様子で転移魔法を発動して帰ったエルドさんを見送り、日帰りだと伝えて城を出てきたため泊まれないというロードさん達のお見送りのため神殿へと向かう。 「今日は驚きの連続だったな。城へ帰ったあとに報告書の山が築かれておらねばよいが……」  なんて冗談っぽく言っていたロードさん。  レイを片腕で抱え、空いた手で俺と手を繋ぎ、俺に歩調を合わせてゆっくりと歩いてくれている。 「治癒していただいたところなのですから、無茶はなさらないでくださいよ?」 「わかっている」  アルさんの言葉に苦笑を浮かべて返答したロードさん。  温泉で聞いた雑談の中で、ロードさんの正室として隣国から嫁いできた姫君の体調が最近あまりよくなくて、公務の合間にロードさん自身も治療薬などの検索を行っていたため、睡眠不足となり、疲労も溜まっていたらしいと聞いた。 「セレスだけでなく、俺も自分の体力を過信していたようだ。今後は気を付ける」  セレスこと、セレスティアーナ様は、アクアリオン王国から分かれたロザリオン公国の姫。  元々治癒士でもあった彼女は、政略結婚で他国から嫁いできたばかりとはいえ、お飾り皇妃のようにはなりたくなくて、魔物の討伐に出て怪我を負った騎士達や民の治療を頑張り過ぎ、体調を崩した。  彼女の体調不良の原因が疲労の蓄積だけでなく別の要因もありそうだと、ロードさんも公務の合間に調べていたという。  セレスティアーナ様の体調不良の主な原因は、環境の変化により免疫力が低下していたところに魔物の瘴気に触れてしまったことで呪いを受けたこと。  そして、おめでたでもあったようだ。初夜懐妊ってやつだったみたい。  瘴気により受けた呪いは聖水で解呪できたものの、弱った状態で疲労の蓄積まで起きたものだから母子ともに危険な状態だったようだ。  そこに俺とレイが作成した魔法薬が届いて助かったのだと感謝された。 「体力の低下や疲労の蓄積は、時間経過や食事や睡眠でしか癒せぬと言われて来たものだ。食欲も低下し睡眠も浅く日々衰弱していくセレスを見ていて生きた心地がしなかった。ありがとう」  そんな話をしているうちに、神殿に到着した。
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