賢者の教え

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 賢者認定されるほどの実力者であると判明したアルヴィスさんが、神殿に設置された転移魔法陣でロードさん達と共に帰国する前に教えてくれたことがある。 「魔法の二重展開は、魔術師認定試験に合格した者でさえ、その難易度から実行できる者は少ないのです。治癒魔法の重ね掛けは、自分が知る限り今回初めて目撃いたしました。人前では、あまり多用せぬほうが良いでしょう」  アルヴィスさんによると、俺がロードさんに〝ヒール〟と〝キュア〟を重ね掛けした時のような魔法の発動方法は、最初に発動した魔法の効果を二つ目の魔法の効果が上書きして打ち消してしまうために実用化されていないらしい。  魔法陣を別々の場所に展開して同時発動する方法であれば――たとえば防御魔法を自分にかけながら、離れた場所に魔法陣を展開して攻撃魔法を放つような方法ならば、アルヴィスさんのように賢者とまではいかなくても上級魔法を複数扱える魔術師あたりであれば可能な者もいるけれど、それでさえ稀なレベルだとか。 「効果を打ち消さずに複数の魔法を展開するには、魔石に魔法を付与しておいて利用するか、魔道具などを併用するのが一般的です。治癒魔法に関しても、〝ヒール〟は病気の治療や、火傷や切り傷などの傷口を浄化しながら傷を癒す魔法として使用され、〝キュア〟は毒、麻痺、混乱などの状態異常を癒す魔法とされております。とはいえ全ての病を癒せるわけでもなく、体力の減少に関しても、蓄積された疲労に関しても、食事と睡眠、時間経過による回復以外の治療方法は、神の奇跡くらいであると認識されているものです。聖水に治癒魔法と状態異常回復魔法を交互にかけても、後から発動した魔法の効果が上書きされてしまいますし、治癒ポーションと状態異常回復ポーションを混ぜた場合も、魔法薬としての効果が失われ、ただの水になるだけで万能薬になどならないのが通常なのです」  俺がロードさんの疲労を魔法で回復させたことが、この世界では賢者にここまで説明させてしまう程に見慣れぬものなのだと実感しつつ、その内容を頭に刻んでいく。 「神殿で神が気紛れにもたらす奇跡の神薬として伝承に残るものが、あらゆる傷や病を癒すとされる万能薬エリクサーです。作成を含め、取り扱いには充分にお気をつけくださいね。世の中、善人ばかりではありません。自衛はしっかりとなさってください」  そこまで告げたアルヴィスさんは、最後に『贈り物の万能薬のお陰で多くの者が救われました。ありがとうございます。ですのでどうか、御身を大切に』と言い残して帰って行った。
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