『いただきます』に込められた祈り

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 世界各地の神殿付近から広まったとも伝えられているみたいだけれど……。  チキュウに巨大隕石が衝突して死亡した時の痛みや苦しみも記憶しているし、前世で過ごした魔法世界でスタンピード(魔物の大量暴走)も経験して、その被害も目の当たりにした身だからこそ、より強く願ってしまう。  争いの無い平和な世界で、のんびりスローライフを満喫できるような平穏な日常が、笑顔が溢れる生活が、この先の未来も続いていくように。 「おいしーね」 「うん」  俺達のために洋酒が控え目なガトーショコラを選んでくれたみたい。 「はうぅ……至福で私も溶けそー。この甘さとほろ苦さが絶妙だー」 「これは……チョコレートの艶も見事ですし、あの店には優秀なパティシエやショコラティエがいたのでしょうね」 「チョコレートはなぁ……嫌いではないんだけれど、自分で作るのは、ゼファーの手伝いでも、俺はもうやりたくないな」 「あれは僕も遠慮したいな。あの手間を考えたならば、チョコレートが高級品となるのも仕方がないかな」 「私もチョコレートは食べる専門でいいよー」  チョコレートをカカオ豆の焙煎作業からやって作ると、調合スキルと料理スキルはかなり上昇するらしい。  ただ、とても手間がかかるそうだ。  人間の心は時に強くて、とても脆い。  些細なきっかけで、生きる気力を失ってしまうことだってある。  慈しんでくれる者達がいるから、そんな彼らに守られているから、一歩間違えれば死と隣合わせな魔境の森に近いこの辺境の村でも、平穏な日々を過ごせていることにも感謝しないとな。
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