第二章

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  「ひ弱なあやかしは、我々のような霊視能力のある人間が触れればたちまち消えてしまうくらいの儚い存在だからね。わざわざ囮捜査までして誘き寄せる必要はないと思う。だから我々が相手にするのは、もっと高等で強力で、甚大な被害が予想されるあやかしなんだよ」  言いながら、御影は手元に用意していたパワーポイントを起動させ、部屋の照明を消す。  と、直後にホワイトボードに映し出された画像を見て栗丘は絶句した。  そこに映し出されていたのは、あきらかに人の死体だった。  自宅のリビングのような場所で、成人と思しき男性がうつ伏せに倒れている。  衣服はズタズタに引き裂かれ、その隙間から覗く皮膚は変色して老木のようになっている。  辺り一面にはあちこちに血の(ほとばし)った痕があり、男性が何かから逃げ惑いながら絶命した様がありありと想像できた。 「一見、熊か何かに襲われたように見えるんだけどね。実際はこの男性の奥さんに取り憑いていたあやかしの仕業だよ。男性は常日頃から不倫を繰り返していたようでね。奥さんもそれに気づいていたみたいだから、きっとその恨みの心に付け入られたんだと思う。まあ、夫婦間の恨み言なんてそれだけじゃなかったかもしれないけどね」  
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