呼び出し

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エルヴェリア王国のとある日。 セリスとイアンは、国王のアリサンドに呼び出され、国王の部屋を訪れていた。 少し緊張した面持ちの二人の前に、アリサンドがアンティーク調の椅子に深く腰を掛けている。 「陛下、何か御用でしょうか?」 厳粛な空気の中、イアンが口を開いた。 「あぁ、少しお主らに話しておくことがあってだな。その前に、ヴァイオレン、お主体調はどうじゃ?」 「あ、はい。今は大分良くなってます…。お心遣いありがとうございます。」 イアンは、まさか自分の体の事を聞かれるとは思っておらず、面食らいながら答えた。 「私達に話しておくこと、と言うのは何でしょうか?」 「その事なんじゃが…、ここ最近、闇の者の勢力が強まって来ているのは、お主等も知っているだろう。」 「はい」「はい」 セリスとイアンは、真剣な顔で頷いた。 「そこでだ、ミライル、お主の魔法について話しておきたいと思ってな。」 「私の魔法について、ですか?」 「そうじゃ。」 アリサンドが机に手をつきながら、真剣な目でセリスを見やる。 セリスは、その眼力に少したじろいだ。 アリサンド王は、そのまま続ける。 「ミライルよ。お主の魔法は光魔法だけではないのだ。」 「と、おっしゃいますと?」 セリスが、聞き返すとアリサンド王は語り始めた。 国王の話しによると、セリスの一族には代々受け継がれている魔法があり、 それは聖天(せいてん)魔法と言う魔法で、この国の最初の魔法だと言われているらしい。そして、その一族は、初代国王、つまり国王の祖先と共に、神から魔法を授かった魔法を使いこなし、初代国王と力を合わせてこの国を作った。 しかし、ある時を境にして、その者の一族は途絶え、今に至ると言うこと。その生き残りがセリスと言うことだった。 「はぁ…。」 「………」 セリスは、アリサンドの話を釈然としない様子で聞いていた。 それもそうだろう。 突然、自分がそんな一族の生き残りなどと言われてもピンと来ないのだから。 それに、今まで彼女はそんな話を一度も聞いた事はなくそう言う一族がいたとは、本でも読んだことないのなら尚更だ。 セリスが、隣に立つイアンの方をチラリと見やる。 それに気がついた彼は、首を小さく横に振る。どうやらイアンも知らなかったようで、衝撃を受けたのは彼も同じだった。 「それで、その聖天魔法とは、どんな魔法なんでしょうか?」 これまで黙って聞いていたイアンが口を開いた。 「先も言ったように、神から加護を受けた物が使える魔法じゃ。聖天(せいてん)魔法は攻撃魔法のみならず、傷の治癒、毒などによる体内異常の浄化、魔力の干渉や増大などあらゆる事が可能な魔法じゃ。」 「そんな便利な魔法が実在するのですか…」 イアンが信じられないと言った様子で呟いた。 「ヴァイオレンが知らぬのも無理はない。この事はごく一部の人間しか知らされていないのだからな。 して、その魔法がお主にも受け継がれているはずなのじゃが、心当たりはないか?ミライル」 「心当たりですか……。(心を照らす力……魔力の干渉……もしかして)」 セリスは、手を顎に当てて今までの事を思い出してみる。すると、一つだけ思い当たる節があった。セリスは、その事をアリサンドに伝える。 「子供の頃、イアンが魔力を暴走させた時に、それを止めることが出来ました。もしかして、それが聖天魔法と関係があるのでしょうか?」 「おそらく、そうじゃろうな。」 「しかし、だとしても私は治癒魔法の類は一切使えませんが…。」 自分が、その魔法を使える一族だという事は解った。しかし、それならなぜ、自分は治癒魔法が使えないのかセリスは不思議に思い、小首を傾げる。 「うむ。それはお主が覚醒の為の条件を満たして居ないからじゃ」 「覚醒…条件……。それは一体どんな物なのでしょうか?」 「うむ。覚醒の為の条件は、まず一つ目は、その者が心から愛している者と結ばれること。そして、神域にある神聖樹(しんせいじゅ)に二人が認められる事じゃ。」 「心から愛している者と結ばれること……ですか?」 セリスは、アリサンドの言葉を反芻(はんすう)した。そして、少し照れたように頬に朱が差した。 「二つ目は、愛する者と共にいる時。まぁ、この二つは問題無いじゃろ。そして肝心な三つだが……」 アリサンドは、ここで一度言葉を止めると、セリスの目をしっかりと見据えて言う。セリスは、ゴクリと唾を飲み込む。 「最後の一つは、まだ言わないでおくことにする。これを言うと、きっとミライルは拒否するだろうからな…。」 「セリスの事と、聖天魔法については解りました。しかし、それをなぜ今、お話になられたのですか?」 「先も言ったように最近、闇の勢力が最近強まってきている。故に早急に覚醒してもらいたい。この魔法は特殊故に狙われやすい。反面、闇の者にとっては、絶大な対抗威力になるのじゃ」 アリサンドの言葉にイアンは合点がいった。確かに、こんな凄い魔法があれば、欲しくもなるだろう。確実にセリスを狙う奴はこれから増えていくはずだと彼は思った。そして、改めて決意を強くし拳を固く握った。 (絶対にセリスを渡しも、殺させもしない) そんなイアンを後目(しりめ)に、アリサンドはセリスに問いかける。 「以上の事をふまえて、出来るか?ミライルよ。」 「はい。それでこの国を守れるのなら、断る理由はありません。」 「そうか。なら、まずは神域にある神聖樹の所に行ってもらうことになる。」 神域とは、ここから山を2つ超えた先にある、邪な心を持つ者は一切入れないとさせる場所である。 その中央にある木の事を、神聖樹と呼んでいる。そして、神々しい程の美麗さに畏怖すら感じると言う謂れのある場所だ。 イアンとセリスは、その場所に行くのは初めてである。 セリスは、アリサンドからの問いかけに力強く頷いてみせた。アリサンドは、彼女の反応に、満足げな表情を浮かべた。 「明日には出発してもらう。早ければ早い方が良いのでな。」 「解りました」 「はい」「はい」 二人は揃って返事をする。 「以上だ。戻って良い。」 「失礼します。」 そう言うとイアンとセリスは、一礼をしてアリサンド王の部屋を出ると、ホッと息を吐き、肩の力を抜いた。 「大丈夫か?セリス」 「えっ?うん…。驚いたけど私は平気だよ。」 「そうか…。なら、いいんだが。」 「これから、今以上に頑張らないとね!」 「そうだな」 イアンは、セリスの事を案じ、彼女に声をかけた。だが、思ったより平気そうで安堵する。そして、意気込んでいるセリスに、ふっと笑って相槌を打った。  翌日、朝。 空が明るくなり始めた頃。 イアンとセリスは、神聖樹のある神域へと向かう為の準備を済ませ、王城の城門前に立っている。 「セリス」 「イアン……」 セリスはソワソワとし落ち着かない様子だ。意気込んではいたが、やはり多少なりとも緊張するのだろう。 セリスの表情には少し不安の色が浮かんでいる。 そんなセリスに苦笑いしつつ、安心させるように、セリスの頭にポンと手を置いた。そして、 「心配すんな、俺も一緒に行くんだからな。」 そう言った。その言葉は短くてもセリスにとっては、とても心強い物だった。セリスは緊張が解れ、柔らかな表情に戻った。 「大丈夫そうだな?」 「うん、大丈夫。ありがとう」 「よし、じゃ行くか」 そう言って馬に乗り、城門に向かってイアンに遅れぬようセリスもまた後を着いていく。 城門の前で待機していた兵士達は、イアン達の姿を確認すると、門を開けた。 城門を出た二人は神域へと出発した。
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