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二階に辿り着くとわたしは木製の扉の前で深呼吸をする。当近さんとお兄ちゃんはこのカフェで何を話していたのだろうか。ちょっと気になる。
わたしは、木製の扉を開けた。ドアベルががカランカランと鳴る。
「いらっしゃいませ~」と美間さんの明るい声が聞こえてきた。
店内は今日も木の温もりを感じるゆったりした空間になっていた。お客さんは年齢も性別も様々でけっこういた。
「あら、美衣佐ちゃんじゃない。こんばんは」
「美間さんこんばんは」
わたしは、店内のカウンター席に目を向けたのとほぼ同時にお兄ちゃんが振り向いた。
「あ、美衣佐」とびっくりしたように目を丸くした。
「お兄ちゃん今日はお客さんとして来たんだね?」
わたしは、お兄ちゃんの左隣のカウンター席に腰を下ろす。きっと、さっきまで当近さんが座っていた席だ。
「うん、そうだよ」
「ふ~ん、そうなんだね」
「美衣佐ちゃんお冷やとメニュー表をどうぞ」
美間さんがやって来てわたしの目の前にお冷やとメニュー表を置きパタパタと厨房へ戻った。
「お兄ちゃんもいるから海老ドリアでも食べようかな。どうせお母さんは帰り遅いだろうしね。お兄ちゃんも海老ドリア食べない?」
わたしは開いたメニュー表の海老ドリアを指差し言った。
「あ、海老ドリアか……それさっき食べたから違うメニューにするよ」
「え! お兄ちゃん海老ドリア食べたの? それって当近さんとかな?」
「うん、そうだよ。って美衣佐どうして当近さんが来てたって知っているんだ?」
「お兄ちゃんってばどうしてそんなに驚いているのかな? 今、そこの階段で当近さんとすれ違ったんだよ」
わたしは口元に手を当ててクスクス笑った。
「そっか、そうなんだね」
お兄ちゃんのその目はちょっと泳いでいるように見えた。けれど気のせいかな。それより、
「ねえ、お兄ちゃん海老ドリアはわたしとだけ食べるって決めてなかった?」わたしは頬をぷくっと膨らませ言った。
「え? そんなこと言ったかな?」
「言ったよ。大好きな海老ドリアはわたしとお兄ちゃんの特別メニューにしようねって」
「そうだったか。美衣佐ごめんね」
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