29人が本棚に入れています
本棚に追加
お兄さんはあれから黙っている。何かを考えているようだ。
わたしは、まだ、残っていた海老ドリアをスプーンですくい食べた。ちょっと冷めていたけれど、ホワイトソースがクリーミーで美味しかった。
ドリア皿にスプーンを置いたその時、お兄さんが「ねえ、当近さん」と声をかけてきた。
「何ですか?」
「まず先に謝っておきますごめんなさい」
お兄さんはなぜだか謝り頭を下げた。
「え? お兄さんどうしたんですか?」
わたしは首を横に傾げ聞いた。お兄さんは一体どうしたというのだ。
「その……ちょっと言いにくいんだけど俺、実は当近さんを尾行しました」
「はぁ? 尾行ってそのどういうことですか?」
わたしは自分の耳がおかしくなってしまったのではと思うほどびっくりした。
もしかしたらお姉ちゃんにパンを買ったあの日感じた誰かに見られているような怪しげな視線はお兄さんだったというのだろうか。
「えっと、当近さんを尾行というか正確には美衣佐をなんだけどね」
「え? どういうことですか? ますます意味がわからないですよ。美衣佐ちゃんの尾行がどうしてわたしに繋がるんですか」
頭がこんがらがる。
「あ、ごめんね。わかりにくい言い方だったよね。実は美衣佐の様子がおかしいから尾行したことがあるんだ。そしたら美衣佐は当近さん君を尾行していたんだよ」
「はぁ!? え~!! 美衣佐ちゃんがわたしを尾行ですか」
わたしは、大声を上げてしまった。
「うん、そうだよ。つまり美衣佐が当近さんを尾行していてその美衣佐を俺が尾行していたってことなんだ……」
お兄さんは申し訳なさそうに笑う。
「それは順番的にはわたしの後ろに美衣佐ちゃんその後ろにお兄さんが歩いていたってことですか?」
わたしはとんでもない状況を思い浮かべ尋ねた。
「うん、そうだよ」
「でも、どうして美衣佐ちゃんがそんなことをしたんですか?」
最初のコメントを投稿しよう!