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「俺もそれがわからなくて困っているんだよ」
「そ、そうなんですね」
「あの日、美衣佐は当近さんがこのカフェの隣のパン屋に入るのを眺め、それから当近さんが滑り込むように入った家をじっと見ていたんだよ」
お兄さんは眉間に深い皺を寄せながら言った。
「わたしの家を見ていた……美衣佐ちゃんがどうして?」
それはつまり、美衣佐はわたしの家に遊びに来る前からわたしがどんな家に住んでいたか知っていたということだ。
「俺もさっぱりわからないんだよ……」
「もしかしたら交換日記の相手の調査とか?
あ、でもその時はすでに交換日記をしていたんだ」
わたしは、頭を抱えうーんと唸った。隣の席に座るお兄さんもわたしと同じようにうーんと唸った。
「遠目からだったけど当近さんの家を見上げる美衣佐のその顔はなんだか寂しげに見えたんだ……」
そう言ったお兄さんの顔を見ると目に悲しみの色が溢れていた。なんだか胸がキュッと痛くなりまた泣いてしまいそうになった。
「美衣佐ちゃんには妹思いのこんなに優しいお兄さんがいるのに……どうして、もっと素直な女の子になれないんだろう」
わたしはなんだか悔しくてそして、悲しくて唇をギュッと噛んだ。
「当近さんありがとう。君は本当に優しい子だね」
お兄さんはそう言って柔らかい微笑みを浮かべた。お兄さんのその笑顔と心に響くその言葉が嬉しくてわたしの瞳からぽろっと涙が一粒零れた。わたしは慌てて手の甲で涙を拭う。
美衣佐、あなたは不幸なんかじゃないはずだよ。
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