Precious Summer Memory Among Us

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 トリガルーティン症候群。  ある状況がきっかけで決まった行動を取ってしまう精神疾患の一つである。    中学二年の夏をきっかけに、俺はその病気を患うこととなった。  川で溺れて意識不明となったカノジョ。その後の行方を知る事なく、俺は引っ越してしまった。引っ越してから何年経っても、自宅にカノジョから連絡が来ることはなかった。それで何となく状況を察してしまった。  だから俺は自分の中にカノジョのイマジナリーを作ったのだ。これ以上、精神に負担がかかることがないように自己防衛本能が働いたのだろう。それが俺のトリガルーティン症候群発症のきっかけだ。 「お大事に。くれぐれも川には近づかないでくださいね」  かかりつけの精神科へと赴き、カウンセリングをしてもらった。  彼女は念を押すように俺に注意喚起する。俺の症状は自分では止めることができない。今回はひまわり畑を見てフラワーパークに行っただけだから良かった。川を見て、彼女が溺れている様子を想起して助けに行くなんてことをしたら、大惨事になってしまっていた。  かと言って、ずっと避けるわけにもいかないのがこの病気の悪いところだ。  自己防衛として作り上げたイマジナリーに対して、何もしなければ精神的ストレスが募る。適度にイマジナリーと会いつつ、避けるところは避ける。今年の夏も骨が折れる日々を過ごしそうだ。  処方箋を受け取り、駅の方へと歩いていく。  お昼の日差しは肌を強く刺激する。長時間歩くとヒリヒリとした痛みに襲われるためできる限り日陰を歩いた。 「ん?」  駅に辿り着くと、柱に設置された液晶パネルに『花火大会開催』の広告が映し出されていた。〇〇花火大会が三年ぶりに開催されるらしい。 「今週の休日、花火大会が開催されるんだ。ねえ、行ってみたい!」  すると隣にいたカノジョがそう言って、俺に微笑みかけた。  長い黒髪を垂らし、まん丸な紺碧の瞳を閉じて、にっこりと笑う。まだ幼い彼女はセーラー服を身に付けていた。 「うん、行こうか」  再びイマジナリーに唆され、今週末に開催される花火大会に行くこととなった。
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